財産分与とは?分け合うまでの9つのステップ【チェックシート付き】

  • 財産分与って何ですか?
  • 財産分与の対象となる財産は何ですか?
  • どういう手順、手続きで進めていけばいいですか?
  • どういう方法で財産を分けるのですか?

この記事はこのような疑問、お悩みにお応えします。

離婚の際には親権、養育費、慰謝料、面会交流など、相手と話し合い取り決めなければいけないことがたくさんあります。財産分与もその中の一つです。

しかし、財産分与と一言でいっても、分ける財産ごとに話し合う内容が異なり、内容も複雑で、頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか?

そこで、今回は、財産分与とは何か、財産分与の対象となる財産、ならない財産とは何か、どういう手順、手続き進めていけばよいのか、どういう方法で財産を分けるのかについて詳しく解説していきたいと思います。

財産分与と種類

財産分与とは、離婚に際して夫婦の財産を分け合うことです。財産分与には

  • 清算的財産分与
  • 慰謝料的財産分与
  • 扶養的財産分与

の3種類があります。

清算的財産分与

清算的財産分与とは、夫婦の財産を分与割合(通常2分の1)に従って分ける財産分与です。

財産分与を行うときにまず検討しなければならない方法が清算的財産分与。実務上は、清算的財産分与により財産分与するケースが圧倒的に多いのが実情です。

慰謝料的財産分与

慰謝料的財産分与とは、財産分与に慰謝料の要素を含ませた財産分与です。

財産分与請求権と慰謝料請求権は別の権利ですから、本来は別々に請求できます。しかし、夫婦で合意できるのであれば、財産分与に慰謝料の要素を含ませ、慰謝料については別途請求しないとする取り決めを行うことも可能です。

扶養的財産分与

扶養的財産分与とは、離婚後における相手方の生計維持を目的として行われる財産分与です。

扶養的財産分与は、夫婦の一方に、清算としての財産分与や慰謝料の要素を加味してもなお、生活に困る事情があり、他方に扶養能力がある場合に検討される補充的な財産分与です。一定期間金銭を支払う方法が多いですが、家の利用権(使用借権、賃借権)を設定するなどの方法もあります。

財産分与の対象となる財産は共有財産

財産分与の対象となる財産は夫婦の共有財産です。共有財産とは

  • 夫婦共有名義の財産(狭義の共有財産)
  • 婚姻後に夫婦で協力して築き上げたと認められる財産(実質的共有財産)

のいずれかです。
以下、共有財産になりうる主な財産をみていきましょう。

預貯金

婚姻後、別居(あるいは離婚)時までに築いた預貯金は財産分与の対象です。名義やどちらが稼いだか、収入が多いかは関係ありません。子供名義の預貯金も、その原資によっては財産分与の対象となります。

退職金

婚姻から退職までに相当する金額が財産分与の対象です。すでに支給されている場合は財産分与の対象となりますが、まだ支給されていない場合は、支給される蓋然性が高い場合に限り対象となります。

共有名義の場合はもちろん、単独名義の場合でも婚姻後に購入した家は財産分与の対象となります。もっとも、オーバーローンの場合は資産価値0とみなし財産分与の対象としない取り扱いです。

婚姻後に購入した車で、車のローンを夫婦の共有財産で払っていたような場合は財産分与の対象です。家と同様に、オーバーローンの場合は財産分与の対象となりませんが、車やローンをどうするかはきちんと話し合っておく必要があります。

生命保険

生命保険は貯蓄型と掛け捨て型に分かれますが、貯蓄型生命保険の保険料払込期間に対応する解約返戻金が財産分与の対象となります。もっとも、解約にはデメリットもありますので、解約しないことも選択肢の一つです。

学資保険

学資保険も保険料払込期間に対応する解約返戻金が財産分与の対象です。もっとも、生命保険と同様に、解約にはデメリットがありますので、解約しないことも選択肢の一つです。

借金

財産分与の対象となる財産は、預貯金などのプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産も含まれます。

財産分与の対象とならない特有財産

一方、基本的に財産分与の対象とならないのが特有財産です。特有財産とは、

夫婦の一方が

  • 婚姻前から所有していた財産
  • 婚姻中に相続・贈与など、相手とは無関係に取得した財産
  • 婚姻後に購入した物ではあるものの、衣服等明らかに夫婦の一方の専用品として使用されている物

のいずれかです。
もっとも、他方配偶者(妻)の寄与・貢献によって、特有財産の消滅・価値の減少を防止し、あるいは維持してきたと認められる場合には、寄与・貢献度に応じて、相当額が財産分与の対象となります。

財産分与の割合

財産分与の対象となる財産を確定できたら、次に検討すべきなのがどのような割合(分与割合)で財産を分けるかということです。

ただ、この点に関しては、実務上、特段の事情がある場合を除き、2分の1の割合で分けることが実情です。専業主婦であっても、基本的に分与割合は2分の1です。

2分の1の原則を修正すべき特段の事情としては、

  • 夫婦の一方の特別の努力や能力によって高額の資産が形成された
  • 家を購入する際、夫婦の一方の特有財産を頭金に充てた
  • 夫婦の一方が勤労、家事労働を引き受けて、他方がこれを全く行わなかった
  • 夫婦の一方が、他方に無断で多額の借金を背負った

場合などが考えられます。

財産分与の方法①(共有財産の把握~方法の決め方)

財産分与を行うには、まずは共有財産を把握し、最後にどのような方法で財産分与するのかを決める必要があります。ここでは共有財産の把握から財産分与の方法までの手順を解説します。

① プラス、マイナスの共有財産をリストアップ

② 証拠を集める

③ 評価が必要な財産を査定に出す

④ 財産分与対象額を計算する

⑤ 分与割合について話し合う

⑥ 基本の取得分額を計算する

⑦ 未払婚姻費用があれば⑥に加算

⑧ 慰謝料的要素、扶養的要素の加味を検討

⑨ 財産分与の方法を決める

①プラス、マイナスの共有財産をリストアップ

まず、財産分与の対象となるプラスとマイナスの共有財産をリストアップします。同時に特有財産がないかを確認し、例外的な事情がない場合は、財産分与の対象から外します。

相手に尋ねなければ把握できない場合は、すべての離婚準備を整え、本格的に離婚の話し合いに移行した段階で情報の開示を求めます。
相手が開示に応じない場合は弁護士に依頼するか調停を申し立てる(※)ことを検討する必要があります。

弁護士に依頼すれば「弁護士照会」、調停を申し立てた場合は「調査嘱託」という制度を利用できます。ただし、預貯金を調べる場合はあらかじめ金融機関名と支店名を把握しておく必要があること、相手方の同意を原則とすること、照会先が回答に応じない場合もあることなどから、絶対的な制度ではない点に注意が必要です。

②証拠を集める

次に、共有財産のリストアップと同時に証拠を集めます。証拠は話し合いの土台となりますし、調停・裁判まで手続きを進めた場合は提出を求められます。相手に離婚を切り出す前に、できる限りの証拠を集めきることが大切です。

【共有財産と主な証拠】※原本はすべてコピーを取る

・預貯金・・・・預金通帳(子供名義の通帳も含む)、残高証明書
・退職金・・・・預金通帳、残高証明書、退職金見込計算書(勤務先で発行)
・不動産・・・・売買契約書、登記事項証明書(法務局から取り寄せ)、固定資産税の納税通知書、金銭消費貸借契約書(住宅ローンの契約書)、住宅ローンの償還予定表
・車   ・・・自動車検査証(車検証)、ローンの償還予定表
・積立型保険・・保険証券、保険証書、解約返戻金証明書
・借金  ・・・通知書、明細書(金融機関、ローン会社から送付されるもの)

③評価が必要な財産を査定に出す

①、②と並行して評価が必要な財産(不動産、車など)を査定に出します。査定の方法は財産の種類によって異なりますが、法律で定められているわけではなく、当事者で合意できるのであればその方法で査定しても問題はありません。

④財産分与対象額を計算する

①~③まで終わったら、プラスの財産からマイナスの財産を差し引き「財産分与対象額」を計算します。

ここで「プラスの財産>マイナスの財産」の場合は、その差額が財産分与対象額となります。一方、「プラスの財産<マイナスの財産(債務超過)」の場合は財産分与対象額を「ゼロ(マイナスとはしない)」とし、財産分与は行わないのが通常です(※)。

※もっとも、たとえば、夫単独名義のマンション(1000万円)と夫単独名義の住宅ローン(1500万円)があり、その余の財産がないという場合、夫婦の話し合いで、マンションと住宅ローンの名義を妻単独とし(※ただし、金融機関の承諾が必要)、代わりに夫が妻に対し250万円(=(1500万円-1000万円)÷2)を支払う旨の合意をすることも可能です。

⑤分与割合について話し合う

共有財産を把握し財産分与対象額を算出した後、相手に離婚の話し合いを切り出します。

もっとも、相手が財産を隠している疑いがある場合は任意の開示を求め、開示に応じた場合はその分の共有財産も含めてあらためて財産分与対象額を計算します。計算した後、話し合いで分与割合を決めます。合意できない場合は、弁護士に依頼するか調停を申し立てることを検討します。

⑥基本の取得分額を計算する

分与割合について合意できたら、次の計算式で基本となる取得分額を計算します。

基本の取得分額=財産分与対象額×分与割合



財産分与対象額1200万円、夫の分与割合「3分の1」、妻の分与割合「3分の2」の場合、夫の基本の取得分額「400万円」、妻の基本の取得分額「800万円」となり、妻は夫に400万円(=800万円-400万円)の支払いを求めることができます(金銭給付の場合)。

⑦未払婚姻費用があれば⑥に加算

婚姻費用とは婚姻生活から生じる費用(生活費)のことです。別居から離婚までの間はまだ婚姻関係が継続しているため、相手に負担を求めることができます。

もっとも、別居の際に何らかの事情で婚姻費用について取り決めておらず、一方の夫婦が婚姻費用を過当に負担していた場合は、財産分与の基本の取得分額に未払婚姻費用を加算して清算することが可能です。 

具体的取得分額=基本の取得分額+未払婚姻費用額

⑧慰謝料的要素、扶養的要素の加味を検討

前述のとおり、相手に不貞などの有責な事情がある場合は、離婚慰謝料に代えて財産分与に慰謝料的要素を加味することが可能です。たとえば、相手の不貞が原因で離婚する場合、離婚慰謝料の支払いに代えて相手名義の家を取得し、相手に対する代償金の支払いを不要とする、などの方法が考えられます。慰謝料的要素がない、あるいは考慮しても不十分という場合は扶養的要素を含めることも検討します。

⑧財産分与の方法を決める

最後に、財産分与の方法を決めます。実務上、最も多く選択される方法は金銭による財産分与ですが、金銭で支払うとしても一括か分割か、分割の場合、回数をどうするかなどを決める必要があります。

金銭のほか(に加えて)不動産などの現物、家の利用権を財産分与する方法もあります。たとえば、夫単独名義の住宅ローンが残っている夫単独名義の家に、離婚後も妻と子供が無償で住むことで合意したり、妻が夫に住宅ローン相当分の金銭(賃料)を払うことを条件に住むことに合意したりすることが考えられます。

財産分与の方法②(手続き)

ここでは、財産分与の取り決めを行う手続きについて解説します。

話し合う

まずは、話し合いですが、相手に話し合いを切り出す前に離婚準備を整えておくべきことはすでに述べたとおりです。

話がまとまったらトラブル防止のため、離婚協議書、あるいは離婚公正証書を作って取り決めた内容をお互いが確認できる形にしておきましょう。

強制執行認諾文言付き公正証書を作っておけば、金銭の未払いがあったときに、裁判を経ずに相手の財産を差し押さえる手続きをとることができます。

財産分与で金銭の取り決めをした場合、財産分与のほか養育費、慰謝料の取り決めをした場合は離婚公正証書を作っておきましょう。

調停を申し立てる

一方、話し合いができない、話し合いはできても話がまとまらないという場合は離婚調停(夫婦関係調整調停(離婚))を申立てます。

調停では調停委員が夫婦の間に入って話し合いを進行していきますから、夫婦同士だけで話し合いをするよりかは話がまとまる可能性があります。話がまとまった場合は調停調書という書面が作成され、調停が成立します。調停調書にも公正証書と同様の強制力があります。

一方、話がまとまらない場合、相手が調停に出頭しない場合などは調停不成立となります。その後は、調停に代わる審判がなされない限り、裁判で決着を図ることになります。

参照:夫婦関係調整調停(離婚) | 裁判所

財産分与でよくあるQ&A

最後に、財産分与でよくある疑問にお応えします。

相手の不貞が原因で離婚しますが、相手に財産分与の請求権は認められますか?

不貞などの法律上の離婚原因を作った側も財産分与を請求できます。財産分与はあくまで婚姻期間中に夫婦で築いた財産を清算するものですから、離婚原因や慰謝料とは別の問題として考える必要があります。

財産分与で財産を得た場合、税金はかかりますか?

基本的にかかりませんが、

  • 婚姻期間や夫婦の資産等に照らして財産分与された財産の額が多いとめられる場合
  • 脱税目的で離婚したと認められる場合

は税金がかかる可能性があります。
また、不動産を譲り受けた場合、不動産登記をする際に登録免許税、不動産を所有し続ける限り固定資産税・都市計画税がかかります。

離婚後にはじめて財産分与する場合に気を付けることはありますか?

除斥期間です。除斥期間は離婚成立時から2年で、2年を経過すると財産分与請求することができません。除斥期間は時効と異なり、進行期間をリセットしたり、期間を延長することができません。

一方、離婚前に財産分与について取り決めをし、離婚後に請求する場合は除斥期間ではなく時効が適用されます。協議で取り決めをした場合の時効期間は5年、調停等で取り決めをした場合は10年です。

共有財産を勝手に処分されそうですが、止める方法はありますか?

離婚前であれば民事訴訟法に基づく保全処分の申立てを裁判所に行うことが考えられます。保全処分とは、相手に支払いを求める範囲で相手の預貯金等の財産を仮に差し押さえる「仮差押え」と引き渡しを請求したい物の処分を禁じる「仮処分」があります。

保全処分を申し立てるには、相手に財産分与を請求できる権利があることが認められる蓋然性と財産を保全する必要性を明らかにする必要があります。

また、裁判所に保全を求める財産の10~15%の担保(お金)を提供する必要があります。提供したお金は財産分与が確定した段階で戻ってきます。

まとめ

財産分与とは、離婚に際して夫婦の財産を分け合うことです。財産分与には清算的財産分与、慰謝料的財産分与、扶養的財産分与がありますが、実務上は清算的財産分与による財産分与が圧倒的に多いです。

財産分与の対象となる財産は共有財産が基本ですから、財産分与するにあたっては、まずはどんな共有財産があるのか把握し、同時にその裏付けとなる証拠を集めておくことが大事です。

話し合いで話がまとまった場合は離婚協議書、離婚公正証書などの書面を作りましょう。話し合いができない、話がまとまらない場合は離婚調停を申し立て、調停での合意を目指します。

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投稿者プロフィール

小吹 淳
小吹 淳
離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。