財産分与で税金がかかるって本当?される側、する側に分けて解説

  • 財産分与で税金がかかるって本当ですか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

財産を受け取るときに頭に入れておかなければならないことが税金です。財産分与もその例外ではありません。では、財産分与で税金はかかるのでしょうか?

今回は、財産分与される側、する側にわけて、税金がかかるのか、かかる場合はどんなケースでどんな税金がかかるのかについて詳しく解説していきたいと思います。

【原則】財産分与される側には税金はかからない

まず、財産分与される側にかかる税金として考えられるのが「贈与税」ですが、原則として、財産分与される側には贈与税はかかりません

なぜなら、財産分与は相手から贈与を受けたものではなく、夫婦が婚姻期間中に築いた財産の清算や離婚の生活保障のため、財産分与を受ける側の財産分与請求権という権利に基づき受けたものと考えられるからです。

参照:No.4414 離婚して財産をもらったとき | 国税庁

【例外】財産分与される側に税金がかかるケース

しかし、次の場合には、財産分与される側にも贈与税がかかります。

財産分与された財産の額が多すぎる場合

まず、財産分与された財産の額が婚姻中に夫婦で築いた財産の額やその他すべての事情を考慮しても多すぎる場合です。

たとえば、婚姻期間が短く、夫婦で築いた財産がないにもかかわらず、相手から受けた財産の額が多すぎる場合、それは財産分与ではなく相手からの贈与によって受けたものと判断できます。

こうした場合は多すぎる部分に贈与税がかかります。

脱税目的で離婚したと認められる場合

次に、税務当局から贈与税を免れるために離婚したと認められる場合です。

たとえば、離婚時に財産分与によって配偶者に財産を移転させたものの、

  • その後すぐに同一配偶者と再婚した
  • 離婚後も同居生活を続けていた

というような場合は、税務当局から贈与税を免れる目的で離婚したと認められ、贈与税を課されてしまう可能性があります。

財産分与する側に税金はかかる?

財産分与する側にかかる税金として考えられるのが「譲渡所得税(及び住民税)」です。

譲渡所得税がかかる資産

とはいえ、すべての資産に譲渡所得税がかかるわけではありません。譲渡所得税がかかる資産は

  • 不動産
  • 書画骨董
  • 絵画
  • 宝石
  • 自動車
  • 船舶
  • 機械器具
  • ゴルフ会員権
  • 特許権
  • 著作権

などです。金銭や貸付金、売掛金などの金銭債権には譲渡所得税はかかりません。したがって、税金対策の観点からみれば、現物で財産分与するより、金銭で財産分与した方がよいことになります。

譲渡所得税がかかる場合

財産分与で資産を譲渡した場合、財産分与した時においてその時の価額(時価)により資産を譲渡したことになります(所得税基本通達33-1の4)。そして、財産分与時(※)の時価がその資産を取得したときの価額より高い場合は譲渡取得税と住民税が課されることになります。

譲渡取得税が課される場合=財産分与時の時価>取得時の価額

所得税基本通達 33-1の4

民法第768条《財産分与》(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与として資産の移転があった場合には、その分与をした者は、その分与をした時においてその時の価額により当該資産を譲渡したこととなる。

※協議離婚の場合は協議離婚成立時

不動産を財産分与したときにかかる税金~譲渡される側

不動産を財産分与したとき、不動産を譲渡される側に次の税金がかかりますので注意が必要です。

不動産取得税

通常、不動産を取得したときは不動産取得税がかかりますが、夫婦の財産を清算する意味合い(清算的財産分与)で譲渡されたときは、多くの都道府県において不動産取得税を課さない取り扱いとしています。

一方、慰謝料の代わり(慰謝料的財産分与)として譲渡されたときなどは不動産取得税がかかることがあります。

登録免許税

不動産の名義を変更する場合は、法務局に申請して不動産の登記名義を変更する必要があります。この際にかかる税金が登録免許税です。

財産分与によって登記名義を変更する場合は、財産分与する側とされる側が連帯して納税義務を負いますが、実際は話し合いでどちらが負担するかを決めておきます。

固定資産税、都市計画税

固定資産税は、毎年1月1日時点で、不動産の所有者(不動産登記簿上の名義人)に対して課されます。また、不動産が都市計画区域内の市街化区域内にある場合は都市計画税も課されます。

もっとも、たとえば、夫単独名義の不動産に、離婚後妻が住み続ける場合、直ちに夫から妻に不動産の名義を変更できないことも考えられます。その場合、税金の納税義務者は夫のままですが、

  • 夫に届いた納付書を使って妻が納税する
  • 妻が夫の口座に税金と同額の金額を振り込む

などの方法をとることによって、実質的に妻を負担者とする合意をすることも可能です。

不動産を財産分与したときにかかる税金~譲渡する側

次に、不動産を譲渡する側にかかる税金をみていきましょう。

譲渡所得税

まず、前述のとおり、不動産の財産分与時の時価が取得時の価額よりも上回っている不動産を財産分与する場合は譲渡取得税がかかります。

譲渡取得税の金額は

譲渡取得税=譲渡取得の金額(①)×税率(②)

で計算します。

①は、

譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

で計算します。

②は、次のとおり、不動産の所有期間によって異なる税率が適用されます。不動産を譲渡した年の1月1日時点において、不動産の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得、5年を超えている場合は長期譲渡所得が適用されます。

 所得税住民税合計
短期譲渡所得30%9%39%(※1)
長期譲渡所得15%5%20%(※2)

※1 別途、復興特別所得税0.63%が加算されます。
※2 別途、復興特別所得税0.315%が加算されます。

たとえば、財産分与時の時価「3000万円」、取得時の価額「2000万円」、譲渡費用「200万円」、不動産の所有期間10年の不動産の譲渡所得税は

3000万円-(2000万円+200万円)×20.315=162万5,200円

となります。

なお、居住用財産の譲渡による譲渡取得税の課税には様々な特例(居住用財産を譲渡した倍の3000万円の特別控除の特例など)が設けられています。要件を満たし特例を受けることができれば、譲渡取得税を課税されないで済む場合もあります。

登録免許税

前述のとおり、登録免許税は、不動産を譲渡される側と連帯して納税する義務を負います。

財産分与で税金がかからないようにするための対策

最後に、財産分与で税金がかからないようにするための対策について解説します。

現金、金銭で財産分与する

まず、現金、金銭で財産分与することです。

前述のとおり、不動産などの現物を財産分与すると譲渡所得税がかかってしまう可能性があります。

妥当な額、財産で合意する

次に、妥当な額、財産で合意することです。

前述のとおり、あまりにも過大な額、財産を受け取ると贈与税を課される可能性があります。妥当な額、財産で財産分与したことを証明するために離婚協議書や公正証書を作っておくことも対策の一つです。

各種特例を活用する

最後に、各種特例を活用することです。

使える特例としては、「基礎控除(①)」、「配偶者控除(②)」、「譲渡所得税」の箇所でご紹介した「居住用財産を譲渡した倍の3000万円の特別控除の特例(③)」、「長期譲渡所得の軽減税率の特例(④)」があります。

 対象税金内容主な条件
贈与税1年間の贈与額が110万円までは、贈与税が課されない 
贈与税①とは別に2000万円までは贈与税が課されない居住用不動産の贈与/婚姻期間が20年以上/相手が配偶者であること/贈与税の申告が必要
譲渡所得税譲渡所得の金額から最高3000万円までを控除できる居住用財産の譲渡/譲渡した相手が配偶者ではないこと
譲渡所得税通常の長期譲渡所得の税率よりも低い税率となる居住用財産を譲渡/譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えていること

まとめ

一定の場合を除き、財産分与する側もされる側にも税金はかかりません。ただ、実務上取り扱いが多いのが不動産で、不動産を財産分与する場合は税金がかかることがあります。不動産を財産分与する場合は、税金のことも気にかけながら、どの方法が一番よいのかを夫婦で話し合って決める必要があります。

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投稿者プロフィール

小吹 淳
小吹 淳
離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。