借金は財産分与の対象?なる場合、ならない場合や処理方法を解説
- 借金は財産分与の対象になりますか?
- なる場合はどのように財産分与したらいいですか?
この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。
財産分与と聞くと、多くの方が預貯金などのプラスの財産を分け合うこととイメージしがちです。しかし、夫婦生活ではプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産も発生します。では、このマイナスの財産はどう処理すればいいのでしょうか?
今回は、そもそも借金が財産分与の対象になるのか、なるとしてどんな借金が財産分与の対象となり、どんな借金が財産分与の対象とはならないのか、対象となる場合はどう処理すればいいのか、といったことについて詳しく解説していきたいと思います。
目次
借金は財産分与の対象になる?
まず、借金が財産分与の対象となるかですが、結論から申し上げますと借金の種類・性質によっては財産分与の対象となります。
そもそも財産分与は、婚姻時から別居(または離婚時)までに「夫婦で築いた財産」を離婚時に清算するというものです。そして、多くの夫婦が、日常生活を送る上で、家や車のローンをはじめとするマイナスの財産も負担することと思います。
つまり、「夫婦で築いた財産」にはプラスの財産のみならずマイナスの財産も含まれ、借金も財産分与の対象となりうると考えられているのです。
財産分与の対象となる借金
では、具体的にどのような借金が財産分与の対象となるのかみていきましょう。
日常家事債務
日常家事債務とは「夫婦の共同生活から生じる通常の事務や夫婦共同生活に通常必要とされる一切の事項」と説明されます。
具体的には、
- 各種(家賃、水道光熱費、通信費、保険料など)未払金
- クレジットカード払いの未払金
- 医療費の未払金
などが日常家事債務にあたります。一方で、
- 多額の借金
- 高額商品(太陽温水器、高級布団、学習用教材など)の未払金
などは日常家事債務にあたらないとされています。
日常家事債務に当たる場合は、債権者(お金の支払い請求できる人)に対して連帯して返済する責任が生じます。仮に、名義が夫婦の一方のものであったとしても、他方も返済義務を負います。離婚後もこの返済義務は解消されません。
※株、FXによる損失
夫婦の共有財産(預貯金)の形成する目的で株やFXを行っていたと認められる場合には、株やFXによる損失もまた財産分与の対象となる可能性があります。
夫婦共同生活のために生じた債務
夫婦共同生活のために生じた債務とは、日常家事債務とはいえないものの、婚姻期間中に夫婦共同生活のために生じたといえる債務のことです。
具体的には、
- 衣食住費を補うための借金
- 教育費を補うための教育ローン
などがこれにあたります。
婚姻後の資産形成に関連して生じた借金
具体的には、
- 家の住宅ローン
- 車のローン
- リフォームローン
などです。
これらの借金は、借金の対価として得たプラスの財産(家など)を財産分与の対象とする限りは、財産分与の対象に含める必要があります。
ローンの名義は問いません。名義が夫婦一方のみであっても、財産分与の対象となります(ただし、ローンの返済義務はローンの名義人が負うのが基本です)。
※自営業(個人事業主)での借金がある場合
自営業でも法人化した会社を営んでいる場合は、個人と会社とは別とみなされるため、会社名義の借金は財産分与の対象にはなりません。一方、法人化せずに個人で営んでいる場合は、夫婦の共同生活を維持する上で必要と認められる借金であれば財産分与の対象となります。
財産分与の対象とならない借金
一方で、財産分与の対象とならない借金とは、日常家事債務、夫婦共同生活のために生じた債務、婚姻後の資産形成に関連して生じた債務以外の債務です。
具体的には、
- 婚姻前に夫婦の一方が作った借金、奨学金
- (婚姻後でも)夫婦の一方の趣味、遊興費、ギャンブルなどで作った借金
- 共有財産を形成する目的のない投資(株、FXなど)による損失
などです。
借金が財産分与の対象となる場合の処理
借金が財産分与の対象となる場合は、預貯金などのプラスの財産から借金などのマイナスの財産を控除し、残額を分与割合(通常2分の1)に従って分け合います。
分与取得額=(プラスの財産-マイナスの財産)×分与割合
たとえば、プラスの財産が1000万円、借金が500万円ある場合は、
250万円=(1000万円-500万円)×1/2
となります。
一方、プラスの財産が500万円、マイナスの財産が1000万円の場合、財産分与はしません(500万円のマイナスの財産を二人で分け合うことはしません)。
住宅ローンがある場合の処理
持ち家がある場合、借金の中でも大きなウェイトを占めるのが住宅ローンではないでしょうか?離婚時に、この住宅ローンをどう処理するかは多くの方の頭を悩ませます。
そこで、ここでは、住宅ローンがある場合の住宅ローンの処理について簡単に解説したいと思います。詳細は以下の記事で解説しています。
アンダーローンの場合
住宅ローン残高が家の評価額を下回るアンダーローンの場合は
①家を売却する
②どちらかが家に住み続け、他方に代償金を支払う
方法で財産分与します。
家を売却する場合は家の売却代金で住宅ローンを精算できます。
一方、どちらかが家に住み続ける場合は、家に残る方が出て行く方にお金を払う(あるいは、その他の財産で埋め合わせる)形で財産分与しますが、住宅ローンは残ります。住宅ローンは、住宅ローンの名義人が払っていくことになります。
オーバーローンの処理
住宅ローン残高が家の評価額を上回るオーバーローンの場合は、家は財産分与の対象とはなりません。
もっとも、家や住宅ローンは残りますから、どのように処理するか離婚前にきちんと話し合って取り決めておく必要があります。
オーバーローンの場合は、どちらかが家に住み続ける場合も、家を売却する場合も住宅ローンを払っていく必要があります。
借金の財産分与でよくあるQ&A
最後に、借金の財産分与でよくある疑問にお応えします。
財産分与の対象となる夫名義の借金が200万円ありますが、財産分与するということは夫婦で返済金額を100万円ずつ分けるということですか?
いいえ違います。借金の返済義務は、夫が債権者(お金を貸す人)対して負う義務です。一方、財産分与はあくまで夫婦の問題であって、債権者は関与しません。
もともと債権者は夫の経済力を信用してお金を貸し付けていますから、財産分与という夫婦の都合で勝手に夫の返済義務が軽減されると債権者にとって不利益です。
したがって、借金が財産分与の対象となるからといって、あなたが債権者に借金の返済義務を負うわけではありません。
マイナスの財産>プラスの財産の場合、財産分与でマイナスの財産を夫婦で分け合うということですか?
前述のとおり、マイナスの財産がプラスの財産を上回る債務超過の場合は財産分与はしません。また、借金の返済義務を負うのは借金の名義人で、超過分を夫婦で分け合うこともしません(たとえば、プラスの財産が300万円、借金が500万円の場合、200万円を夫婦で100万円ずつ分け合うことはしません)。
別居中に相手が借金していたことが判明しました。この借金は財産分与の対象となりますか?
基本的には財産分与の対象とはなりません。財産分与は夫婦で築いた財産を清算するものですが、離婚後の借金(財産)は夫婦で築いた財産とはいえないからです。もっとも、婚姻費用の支払いのために借金したなど、夫婦生活のためにした借金と認められる場合には財産分与の対象となります。
まとめ
借金が日常家事債務、夫婦の共同生活のために生じた債務、婚姻後の資産形成に関連して生じた債務にあたる場合には、財産分与の対象となります。
プラスの財産がある場合は、プラスの財産の合計とマイナスの財産の合計を比べ、前者の方が大きい場合はその差額を夫婦で分け合います。一方、後者の方が大きい場合は財産分与せず、残った借金は名義人が支払っていきます。
投稿者プロフィール

- 離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。
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