離婚後の財産分与は時効ではなく除斥期間【専門家が詳しく解説】

  • 離婚後に財産分与を請求することはできますか?
  • 離婚後に財産分与を請求する場合の期限はありますか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

財産分与などの離婚の諸条件は離婚前に取り決めておくことが理想ですが、様々な事情により、とりあえず離婚の成立だけを先行させ、離婚後に取り決めようとした方、あるいはそもそも離婚前に取り決めを行っていなかった方などおられると思います。

とはいえ、離婚後、相手に財産分与を請求することはできるのでしょうか?今回は、そうした疑問にお応えするとともに、注意しなければならない請求期間のことなどについて詳しく解説していきたいと思います。

離婚後に財産分与請求できる?

まず、そもそも離婚後も財産分与請求できるかですが、基本的に、離婚時に財産分与の取り決めをしていなかった場合は請求することが可能です。

もっとも、離婚時に財産分与の取り決めをしていなかった場合でも、たとえば、離婚協議書などの合意書に清算条項(※)が設けられている場合、その内容によっては請求できない可能性もあります。

離婚時に、相手と離婚協議書などの書面を取り交わしている場合は、一度書面に清算条項がもうけられていないか、清算条項によって財産分与を請求することが遮断されていないかを確認する必要があります。

一方、離婚時に財産分与の取り決めをしている場合は、その取り決めにしたがって離婚後でも請求することができます。なお、この請求権は、後述する除斥期間ではなく時効の期間にかかります。

※清算条項とは「離婚後、お互いに書面で合意した内容以外の請求をしないこと」に合意する内容の条項のことです。離婚協議書などの書面に清算条項が設けられている場合、財産分与は除く旨の定めがない限りは、離婚後に財産分与請求することはできません。

財産分与に適用されるのは除斥期間

離婚時に財産分与の取り決めをしておらず、離婚後にはじめて財産分与の請求を行う場合でも、請求期限が設けられていることに注意が必要です。

離婚後はじめて行う財産分与請求の請求期限は除斥期間といい、期間は

離婚時から2年

です。

後述するように、通常イメージされる時効(※)とは異なりますので注意が必要です。なお、離婚慰謝料に適用されるのは除斥期間ではなく、時効期間です。

※一定期間経過すると権利が消滅する時効と言う意味で、正確には消滅時効といいます

財産分与の除斥期間と時効との違い

先ほど出てきた除斥期間と時効との違いは次のとおりです。

援用が必要かどうか

まず、除斥期間では援用が不要なのに対して、時効では援用が必要です。

援用とは、時効期間が経過することによって利益を受ける人が相手に対して、「時効期間が経過し権利が消滅したため、あなたの請求には応じられません」と意思表示することです。時効の場合、期間が経過しただけでは相手の権利は消滅せず、この援用を行ってはじめて権利が消滅します。

一方、除斥期間は援用が不要ですので、期間の経過とともに当然に権利が消滅してしまいます。

更新や完成猶予が可能かどうか

次に、除斥期間では更新や完成猶予ができないのに対して、時効では可能です。

更新とは、経過した時効期間をリセットすることです。完成猶予とは、時効期間を一定期間引き延ばすことです。

時効では相手に債務の存在を承認させるなどして時効期間を更新することができますが、除斥期間はできません。完成猶予も動揺です。離婚時から2年が経過すれば、当然に権利は消滅します。

離婚時に財産分与の取り決めをしている場合は時効が適用される

一方、離婚時に財産分与の取り決めをしている場合は時効が適用されます

すなわち、協議によって離婚した場合は、離婚成立時から5年で時効が完成し、相手の援用によって財産分与請求権が消滅します。

一方、調停、審判、判決によって離婚した場合は、調停の場合は調停成立時、審判、判決の場合は確定時から10年で時効が完成し、相手の援用によって財産分与請求権が消滅します。

除斥期間が経過した後も請求できるケース

離婚後にはじめて財産分与を請求するとしても、除斥期間が経過してしまった後は一切請求することはできなくなるわけではありません。次のケースでは除斥期間が経過した後でも財産分与を請求することができます。

相手が任意に応じる場合

まず、あなたの請求に対して、相手が任意に応じる場合です。

そもそも除斥期間は、いつ権利行使されるかわからないという相手の不安定な状態を短期間で終わらせるために設けられた制度ですので、相手がその利益を放棄し、請求に応じるのであれば請求できると考えてよいでしょう。

合意内容が無効、財産隠し

次に、離婚後2年以内に財産分与の合意をしたもののその合意が無効とされた場合や相手が財産隠ししていたことが発覚した場合です。前者については除斥期間経過後も財産分与請求できると判示した裁判例(東京高裁平成3年3月14日)があります。

また、相手の財産隠しが証明できるのであれば、不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得に基づく返還請求も可能です。

離婚後に財産分与請求する手順

離婚後に財産分与請求する場合は次の手順で進めていきます。

①話し合い

まず、相手とコンタクトがとれ、話し合いができる状態であれば話し合いを試みてもよいでしょう。話し合いで解決したいものの、話がまとまらない場合は弁護士に依頼することも検討しましょう。

話がまとまった場合は合意書(財産分与契約書)を作成します。合意書に強制力をもたせておきたい場合は合意書をベースとして公正証書を作ることもできます。以下の関連記事は財産分与契約書にも応用できますので、参考にしてみてください。

②調停

話し合いをしても話がまとまらないという場合は、相手の住所を管轄する家庭裁判所に対して財産分与請求調停を申し立てます。また、裁判所に対し、相手が勝手に財産を処分したり、隠したりしないような処分(審判前の保全処分など)を求めることもできます。

なお、いきなり審判を申し立てることも可能ですが、裁判所からまずは調停での話し合いを先行させるよう促されることが多いでしょう。

申立先の裁判所は相手の住所を管轄する家庭裁判所が基本ですし、裁判所は申立てを受けた後、相手の住所宛に書面を送る必要がありますから、調停を申し立てるには相手の住所を把握しておかなければなりません。

調停を経て話がまとまれば調停調書が作成され、調停が成立します。調停調書にも公正証書と同様の強制力があります。一方、調停が不成立に終わった場合は、自動的に審判に移行します。審判でも審判書が作成されます。審判書にも強制力があります。

参考:財産分与請求調停 | 裁判所

まとめ

離婚後にはじめて財産分与の請求をする場合は除斥期間に注意が必要です。除斥期間は離婚成立時から2年間で、期間が経過すると、基本的には財産分与を請求することができなくなります。一方、離婚時に財産分与の取り決めを行い、離婚後に財産分与を請求する場合は除斥期間ではなく時効が適用されます。

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投稿者プロフィール

小吹 淳
小吹 淳
離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。