• 遅延損害金って何ですか?
  • 養育費、財産分与、慰謝料に設定することはできますか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

一般の契約では、お金の支払が遅れた場合のペナルティーとして遅延損害金を設定することがありますが、離婚でお金の合意をしたときも設定を検討される方もいると思います。

そこで、今回は、普段馴染みのない遅延損害金とは何か解説した上で、離婚協議書への遅延損害金の設定方法などについて詳しく解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
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遅延損害金とは

遅延損害金とは、お金の支払義務を負う人(以下「義務者」といいます。義務者に対して金銭を請求できる権利がある人を「権利者」といいます。)が、支払期限までにお金を支払わなかった場合に発生する損害賠償金のことです。遅延損害金は遅延によって生じる権利者の損害を填補して権利者の利益を守るとともに、義務者に合意した内容通りの支払いを促すという効果を期待できます。

遅延損害金の計算式

遅延損害金は次の計算式で計算します。

遅延損害金=債務額×利率×遅延日数÷365日(潤年の場合は366日)

債務額」は支払期限が到来した金額のことです。たとえば、「月5万円の養育費を毎月25日までに支払う」という合意をしており、相手が25日までに養育費を払わなかった場合は5万円が債務額となります。また、翌月も25日までに5万円を払わなかった場合は10万円が債務額となります。

利率」は約定利率と法定利率があります。約定利率(※)は当事者で合意した利率、法定利率は法律で定められた利率(年3%)です。法定利率は3年ごとに利率が見直される変動金利制がとられています。

約定利率が法定利率を超える場合は約定利率を適用しますが、約定利率を定めなかった場合は法定利率を適用して遅延損害金を計算することができます。

※約定利率の上限
約定利率の上限に法律上の制限はありません。よく利息制限法や消費者契約法が定める制限内におさめなければならないと勘違いされることが多いですが、離婚の取り決めに際してこれらの法律は適用されません。
当事者で合意できればどんな利率を設定するのも自由ですが、あまりに高額な利率を設定すると公序良俗に反して無効とされることもあります。一般的には「3%~10%」の範囲内におさめることが多いですが、慰謝料については利息制限法の上限利率(21.9%、26.28%、29.2%)や消費者契約法の上限利率(14.6%)を設定することがあります。

遅延損害金の計算例

では、実際に

・慰謝料総額150万円
・月50万円を3回に分割して支払う
・支払期限は毎月25日まで
・約定利率5%

という条件で、「令和5年6月26日時点で、令和5年3月分(3月25日期限分)、令和5年4月分(4月25日期限分)、令和5年5月分(5月25日期限分)の3か月分の慰謝料が支払われていない」という場合の遅延損害金を計算してみましょう。

まず、1か月目の遅延損害金は

遅延損害金=50万円×5%×31÷365=約2,123円

となります。

次に、2か月目の遅延損害金は

遅延損害金=100 万円×5%×30÷365=約4,110円

となります。

次に、3か月目の遅延損害金は

遅延損害金=150万円×5%×31÷365=約6,370円

となり、3か月分の遅延損害金は

約12,603円=約2,123円+約4,110円+約6,370円

となります。

養育費、財産分与、慰謝料に遅延損害金を設定できる?

養育費、財産分与、慰謝料いずれにも遅延損害金を設定することは可能です。

いずれも相手にお金の支払いを請求できる権利だからです。相手が合意したとおりにお金を払ってくれるかどうか不安な場合は、支払いを促すという意味でも遅延損害金を設定することも一つの方法です。

しかし、遅延の期間が長くなればなるほど遅延損害金の計算が複雑になり、それが火種で新たなトラブルを作りかねないことから、あえて遅延損害金に関する合意をしない、法定利率に基づく遅延損害金を請求しないというケースが多いのが実情です。

離婚協議書への遅延損害金の設定方法

離婚協議書に盛り込む遅延損害金の条項例は次のとおりです。

第○条(慰謝料)
1 (略)
2 甲が、前項の養育費について、それぞれの支払期限にその支払を怠ったときは、甲は、乙に対し、当該遅滞額に加え、これに対する支払期限翌日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金を支払う。

遅延損害金以外での対策

遅延損害金の条項の代わりに過怠条項を盛り込むことも一つの方法です

過怠条項とは、次のように、義務者が分割金の支払いを怠ったときに、以後、期限の利益(※)を喪失し、慰謝料等の金銭を一括で支払うことに合意する旨の条項のことです。

第○条(慰謝料)
1 甲は、乙に対し、本件離婚に伴う慰謝料として、金100万円の支払義務があることを認める。
2(略)
3 甲が、前項の分割金の支払いを○回怠ったときは、甲は当然に期限の利益を失い、甲は、乙に対し、前1項の金100万円(既払分があればこれを控除する。)を一括して支払う。

なお、公証人や家庭裁判所は、養育費についてこのような過怠条項を設けることには消極的です。養育費は子の養育に必要な費用であってそのときどきで発生するものであること、事情の変化によって支払義務が消滅したり、金額が変更されることがあることから、過怠条項になじまないと考えられるからです。

※分割払いの場合、義務者が一度に支払わなければならないお金を数回にわけて支払う、すなわち、支払い期限を延長して支払うことができることになった分、義務者に利益といえます。この利益のことを「期限の利益」といいます。

まとめ

今回のまとめです。

  • 遅延損害金とは義務者が支払期限までにお金を払わなかった場合に発生する損害賠償金
  • 遅延損害金は「債務額×利率×遅延日数÷365日(潤年は366日)」で計算する
  • 養育費、財産分与、慰謝料、いずれの場合でも設定できるが、設定しないことも多い
  • 遅延損害金の条項の代わりに過怠条項を設ける方法もある