【有責配偶者】とは | 離婚を迫られたときのための対処法などを解説
- 有責配偶者ってどんな配偶者ですか?
- 有責配偶者が離婚することはできますか?
- 有責配偶者から離婚を迫られたときはどう対処すればいいですか?
- 相手が有責配偶者で何か有利になることはありますか?
この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。
夫婦関係が破綻したことについて相手に主たる原因がある場合は、あなたから相手に離婚を迫り、離婚を成立させるのが一般的な流れかと思います。ところが、実際には、その逆のパターン、つまり、相手からあなたに離婚を迫るということも考えられます。
あなたが離婚に合意すれば離婚は成立しますが、合意しない場合、離婚が成立することはあるのでしょうか?これが離婚でよく問題となる「有責配偶者からの離婚請求」です。
今回は、はじめに有責配偶者とは何かを解説した上で、有責配偶者が離婚することはできるのか、有責配偶者から離婚を迫られたときに備えて今からどんなことをやっておくべきか、離婚の話し合いで有利になることはあるのか、といったことについて解説していきたいと思います。
目次
有責配偶者とは
有責配偶者とは有責行為によって主たる離婚原因を作った配偶者のことをいいます。有責行為は、
- 不貞
- DV、モラハラ
- 悪意の遺棄
- 虐待
などが典型例です。
こうした有責行為は裁判上の離婚理由のほか、民法上の不法行為にあたり、慰謝料請求の対象となる可能性もあります。一方、性格の不一致、価値観の相違など、一方的に配偶者を非難することができない理由で離婚する場合は、直ちに配偶者を有責配偶者と考えることは難しいでしょう。
有責配偶者は簡単に離婚できない
配偶者から有責行為を受けたあなたが離婚を求めることができるのは当然ですが、ときに有責配偶者の方から離婚を求められることがあります。
もちろん、有責配偶者であっても離婚を求めることは可能ですし、後述するように、あなたが離婚に合意すれば離婚することはできます。
問題はあなたが離婚を拒否した場合に、有責配偶者が裁判で離婚できるかですが、この点は「難しい(不可能ではない)」というのが結論です。
なぜなら、裁判所が有責配偶者の離婚を簡単に認めてしまうと、裁判所が有責行為を許す形になってしまい、「有責行為をして夫婦関係を破綻に追い込んで離婚してやろう」という人が出てきてしまう可能性も否定はできないからです。
有責配偶者が離婚できるケース
もっとも、次のようなケースでは、有責配偶者であっても離婚することができます。
あなたが離婚に合意した場合
まず、前述のとおり、あなたが離婚に合意した場合です。
話し合い(協議)であなたが離婚に合意するのであれば、配偶者が有責配偶者かどうかに関係なく離婚できます。あなた、あるいは配偶者が離婚調停を申し立て、調停で合意した場合も同様です。
和解で離婚する場合
次に、和解で離婚する場合です。
話し合い(協議)や調停で離婚が成立せず、配偶者から離婚裁判を提起され、手続きの途中で裁判所から和解をすすめられた場合に、あなたが離婚に合意すれば和解で離婚することができます。
なお、前述のとおり、有責配偶者が離婚することは難しいですから、和解せず判決にまで至った場合は、配偶者の離婚請求は棄却される可能性が高いです。
別居が長期間にわたる場合
最後に、別居が長期間にわたる場合です。
かつて、最高裁判所は有責配偶者からの離婚請求を認めていませんでしたが、その後、考え方をあらため、一定の基準を満たす場合には、有責配偶者からの離婚請求を認めるようになっています(最高裁判例昭和62年9月2日)。
その基準の一つが別居期間です。どの程度の期間が必要かはケースバイケースで判断されますが、過去の判例、裁判例からすると、少なくとも4年前後の別居期間は必要のように感じます。
また、別居期間のほか、
- 養育費、慰謝料、財産分与などの金銭をきちんと払っていく見込みがあり、その旨の合意をする
- 子供がいる場合は、子供のことを最優先にした対応をとる
など、離婚後、あなたと子供が経済的にも精神的にも困らないよう努めていけるかどうかも、有責配偶者が離婚できるかどうかの基準となります。
有責配偶者から離婚を迫られたときに備えての対処法
このように、有責配偶者が離婚するにはあなたの同意を得るか、前述した一定の基準をクリアする必要があり、有責配偶者が離婚するためのハードルは高いといえます。
もっとも、有責配偶者から離婚を切り出すことは禁止されているわけではなく、実際に有責配偶者から離婚を切り出されることはよくあります。
そこで、ここでは、万が一有責配偶者から離婚を切り出されたときのために備えて今からやっておいた方がいいことについて解説していきたいと思います。
証拠を集める
まず、配偶者が有責配偶者であること(配偶者の有責行為)を証明する証拠を集めておくことです。
あなたがいくら不貞などの有責行為によって苦しんでいたとしても、有責行為を証明できる証拠を集めていなければ、何も事情を知らない第三者に配偶者が有責配偶者であることを説明し納得させることができません。まずは、配偶者が有責配偶者であることを証明するためにも証拠を集めておく必要があります。
また、証拠を集めておけば、あなたの好きなタイミングで離婚することができます。配偶者から離婚を切り出されても、「今は離婚するタイミングではない」と考えるならば離婚を拒否すればいいでしょう。反対に、離婚を望むのであればあなたから離婚を切り出す手もあります。配偶者が離婚を拒否しても、有責行為は裁判上の離婚理由にあたるため、いずれは離婚を成立させることができます。
別居の準備をする
次に、証拠集めと並行して別居の準備をすることです。
相手が有責配偶者であれば、いずれは別居せざるを得ない状況になるかもしれません。ただ、一言で別居するといっても、その前にやるべきことが山ほどあり、準備までに時間がかかります。
別居を思い立ってから準備を進めても、別居を急ぐあまり準備不足のまま別居してしまい、別居したことに後悔してしまったり、別居後の離婚の話し合いで後手を踏んでしまう可能性もあります。
そのため、証拠集めと並行して、まずは別居するためにどんな準備が必要か、準備にどれくらいの時間がかかるのか、ある程度予測を立てた上で、計画的に準備を進めていくことが大切です。
別居の準備と離婚の準備は被るところが多いですから、結果的に別居しなかったとしても無駄になることはありません。別居の準備=離婚の準備と考えておけばよいでしょう。
※別居中は婚姻費用(生活費)を請求できる
有責配偶者よりも年収が低い場合は、別居後は、有責配偶者に対して婚姻費用の支払いを請求できます。有責配偶者の支払義務は別居解消(同居又は離婚)まで続きます。婚姻関係が破綻していても同様です。
離婚では離婚慰謝料を請求しよう
有責配偶者から離婚を切り出された、あなたから有責配偶者に離婚を切り出した、いずれのケースにせよ、離婚に合意できたら、慰謝料を含めた離婚条件について話し合う必要があります。
もし、有責配偶者から離婚を切り出された場合は、「慰謝料○○○万円で合意しないなら離婚に応じない」と離婚を拒否しつつも、慰謝料の増額を主張することも方法の一つです。そのためにも、前述したように、配偶者の有責行為を証明する証拠の確保は必須です。
相手が有責配偶者だと離婚条件で有利になる?
配偶者と話し合わなければならない離婚条件は慰謝料以外にも様々あります。では、配偶者が有責配偶者の場合、そのことをもって何か離婚条件に影響することはあるのでしょうか?以下、項目別に解説していきます。
親権
まず、親権については、配偶者が有責配偶者であることをもって何か影響するということは基本的にはありません。
親権は親の権利とともに、子供の利益を守るためにもあるものですので、あくまで「どちらの親が子供の親権者になることが子供にとってよいか」という観点から親権を決める必要があるからです。
配偶者が有責配偶者であっても、普段から子供と関わり、子供との間に信頼関係が構築できている場合は親権を獲得できることは十分に考えられます。
もっとも、不貞(不倫・浮気)に夢中になるあまり家事・育児を放置していた、子供に虐待を加えていたなど、親権者として不適切な事情が認められる場合には親権を獲得することは難しくなるでしょう。
養育費
次に、養育費についても、配偶者が有責配偶者であることをもって、有責配偶者に払わなくてよいとか相場より低い金額しか払わなくてよい、ということにはなりません。
養育費は子供(未成熟子)の養育にかかる費用のことで、親の有責行為とは関係なく発生するものだからです。
養育費は親の子供に対する扶養義務を根拠に負担するものと考えられていますが、離婚後も子供と離れて暮らす親の子供に対する扶養義務が免除されることはなく、引き続き養育費を負担し続けなければいけません。
また、反対に、配偶者が有責配偶者であることをもって、養育費を増額できるわけでもありません。なお、有責配偶者に対しては慰謝料を請求することができますが、養育費と慰謝料とを相殺することはできません。
財産分与
次に、財産分与についても、配偶者が有責配偶者であることをもって何か影響するということは基本的にはありません。
財産分与とは、婚姻後から別居又は離婚時までに、夫婦で協力して築いたと認められる財産(共有財産)を離婚時に清算する(分け合う)、というもので、配偶者の有責行為によって共有財産が増えたり減ったりすることはないからです。そのため、有責配偶者であっても財産分与請求権を取得し、他方配偶者に対してお金を払えと請求することができます。
もっとも、財産の清算の方法は夫婦で話し合って自由に決めることができます。たとえば、有責配偶者が慰謝料を払えるだけの資力がない場合に、慰謝料を払う代わりに有責配偶者名義の不動産を譲ったり、有責配偶者の分与割合を少なめにするなど、ある程度柔軟な形で財産を分け合うことは可能です。
面会交流
最後に、面会交流についても、配偶者が有責配偶者であることをもって何か影響するということは基本的にはありません。
面会交流も、養育費と同様に、子供のためのものですので、配偶者が有責配偶者であることをもって面会交流を制限すべきではありません。
もっとも、配偶者が子供に虐待を加えていた、子供自身の意思で面会交流を拒否しているなど、配偶者との面会交流を実施することが子供にとってよくないと判断される場合には、面会交流は制限されるべきです。
面会交流には配偶者を直接会う面会の方法のほか、電話や手紙などのやり取りをする間接交流や間に第三者機関を挟む方法があります。面会に負担を感じる場合は間接交流や第三者機関を利用する方法で面会交流を継続できないか検討してみてもよいでしょう。
離婚条件がまとまったら書面の作成を
離婚と離婚条件について合意できたら、合意内容をまとめた書面を作りましょう。離婚後の言った、言わないのトラブルを防止できます。養育費や慰謝料、財産分与を分割で払っていく旨の合意をした場合は、きちんと払ってもらうためにも離婚公正証書を作っておくことをおすすめします。
有責配偶者に関するQ&A
最後に、有責配偶者に関する疑問にお答えします。
有責配偶者から婚姻費用を請求されました。払わなければいけませんか?
婚姻費用とは婚姻中に発生する費用(生活費)のことです。別居してから別居を解消する(同居再開or離婚)まで、年収の低い方が高い方に請求できます。
ただし、有責配偶者の請求は権利の濫用として認められないか、金額を減額されることが多いため、まずは請求を拒否してもよいのではないでしょうか。
もっとも、子供に対する扶養義務まで免除されるわけではなく、養育費相当分について払う義務があります。
配偶者のDVが酷く、会社の上司に相談していたところ親密な関係になり、肉体関係をもってしまいました。私からの離婚請求は認められますか?
お互いが有責の場合は、お互いに責任をなすり付け合うことが多く、婚姻関係の修復が不可能であることは明らかで、離婚請求が認められる可能性はあるといえます。
特に、今回のように、配偶者の有責行為を原因として有責行為に至ったようなケースでは、裁判でその因果関係を証明することができれば、請求が認められる可能性は高いといえます。
もっとも、あなたも有責行為を行っており、当然に請求が認められるとは限りませんから、あらかじめ相手の有責性を裏付ける証拠を集めたり、別居期間を設けるなどの対策が必要となるでしょう。
まとめ
有責配偶者とは不貞やDVなどの有責行為によって主たる離婚原因を作った配偶者のことをいいます。あなたから有責配偶者に離婚を切り出す、あるいは有責配偶者からあなたに離婚を切り出される、どちらの場合にも対応できるように、まずは配偶者の有責行為を証明できる証拠を集めておきましょう。
投稿者プロフィール

- 離婚や夫婦問題を中心に取り扱う行政書士です。 離婚や夫婦問題でご相談ご希望の方は「お問い合わせ」よりご連絡いただきますようお願いいたします。
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