悪意の遺棄

  • 悪意の遺棄とは?
  • 悪意の遺棄にあたる場合、あたらない場合は?
  • 悪意の遺棄で離婚、慰謝料請求できる?
  • 悪意の遺棄の証拠は?


この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

悪意の遺棄は不貞と同様に裁判上の離婚事由の一つです。ただ、不貞と異なり聞きなれず、どういう意味なのか、どういう場合に悪意の遺棄にあたるのかわからない、という方も多いのではないでしょうか?

そこで、今回は、悪意の遺棄の意味やその具体例、悪意の遺棄を理由に離婚や慰謝料請求する場合に備えてあらかじめ集めておきたい証拠などについて詳しく解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
離婚や夫婦関係でお悩みの方は一人で悩まず相談してみませんか?弊所の無料相談は時間制限、回数制限を設けていません。時間や回数を気にすることなく気軽に相談できます。ご相談ご希望の方は、「お問い合わせ」または「LINEで無料相談」よりお申し付けください。全国どこにお住いの方でも対応いたします。
プロフィールはこちら

悪意の遺棄とは

悪意の遺棄とは、正当な理由なく、夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務をはたさないことをいいます。

法律上、夫婦は次の3つの義務を負っており、正当な理由なく、3つの義務のうち一つでも違反すれば悪意の遺棄にあたります。なお、同居義務に違反しているときは、同時に協力義務・扶助義務に違反していることが多いです。

同居義務:夫婦が同じ屋根の下で住む義務
協力義務:夫婦で力を合わせて生活していく義務
扶助義務:生活費を負担し合って、お互いが同じレベルの生活を送れるようにする義務

悪意の遺棄の「悪意」とは、相手があなたが困ることがわかっている、婚姻生活が破綻してもかまわないと思っている、という意味です。したがって、単に上の義務に違反しただけでは悪意の遺棄にはあたらないことに注意が必要です。

なお、ただちに家を出ていかなければ相手から暴力を振るわれ命を落とす危険があるなど、形式上は同居義務に違反していても、義務に違反することについて正当な理由があると認められる場合は悪意の遺棄にはあたりません。

悪意の遺棄は離婚理由の第2位

離婚理由(女性)

上の表は裁判所が公表している司法統計(令和3年度司法統計 | 第19表婚姻関係事件数ー申立ての動機別ー全家庭裁判所)の「妻編」をまとめたものです。これによりますと、悪意の遺棄の一つである「生活費を渡さない」が第2位となっており、夫から十分な生活費をもらえていないことに悩まされている女性が多いことがわかります。

悪意の遺棄にあたる具体例

では、具体的にどんなケースが悪意の遺棄にあたる可能性があるのかみていきましょう。

勝手に別居する、家出する

まず、勝手に別居する、家出することです。

ただし、別居するまでの経緯、別居の目的、別居に同意しない側の生活状況、別居の期間などによっては悪意の遺棄にあたらないことももあります。

同居を拒む、家に帰らない

次に、同居を拒む、家に帰らないことです。

なんとなく家に帰りたくないから、相手と顔を合わせなくないから、他の家の方が居心地がよいから、などといった理由で同居を拒むことは悪意の遺棄にあたる可能性があります。

家に入れない、追い出す

次に、あなたを家に入れない、あるいはあなたを家から追い出すことです。

自分から出て行く、別居する、同居を拒むことと同じく、あなたを家に入れない、家から追い出すことも悪意の遺棄にあたる可能性があります。

生活費を入れない

次に、生活費を入れないことです。生活費を入れない(渡さない)は女性の離婚理由の第2位です。

たとえば、夫の収入で家計が成り立っている状況で、夫が生活費を入れずお金を独占しているような場合は悪意の遺棄にあたる可能性が高いです。一方、夫の収入がなくても家計が成り立つ場合は悪意の遺棄にあたらない可能性もあります。

借金・生活費の浪費

次に、借金や生活費の浪費です。

借金を繰り返す、生活費を家に入れずに収入の大半を趣味やギャンブルに費やしているような場合は悪意の遺棄にあたる可能性が高いです。

働かない

次に、働けるのに働かないことです。

働いているのに生活費を入れない場合はもちろん、働けるのに働かないで家に生活費を入れない場合も悪意の遺棄にあたる可能性が高いです。

看病しない

次に、あなたが病気を患っているのに看病せずに放置することです。

悪意の遺棄にあたる可能性があります。過去には、下半身不随となった妻を家に置いて出て行き、生活費を送らなかった夫の行為が悪意の遺棄にあたるとされ、妻からの離婚請求を認めた裁判例(浦和地裁昭和60年11月29日)があります。

生活費を払う約束で別居したのに払わない

次に、生活費を払う約束で別居したのに払わないことです。

別居しても、同居を再開するか離婚するかして別居を解消するまでは、夫婦は生活費を分担する義務を負います。相手が生活費を払うことに合意したにもかかわらず払わない場合は悪意の遺棄にあたる可能性があります。

家事・育児を放棄する

次に、家事・育児を放棄することです。

一方が仕事に専念、他方が家事・育児に専念という状況下で、家事・育児に専念する側が放棄している場合はもちろん、仕事に専念する側が放棄している場合でも悪意の遺棄にあたる可能性があります。また、共働きでも悪意の遺棄にあたる可能性はあります。

悪意の遺棄にあたらない具体例

一方、悪意の遺棄にあたらない具体例としては、

・お互いに合意の上で別居する
・単身赴任や病気療養で別居せざるをえない
・夫婦関係を見直すため一時的に別居する
・相手のDVや虐待から身を守るため家を出た
・介護、出産のために里帰りする
・子どもの通学のために分かれて暮らす
・病気などによりやむを得ず働けない
・家事、育児に専念するため職に就かない
・相手が一方的に家を出たため生活費を渡さない

などをあげることができます。

悪意の遺棄は裁判上の離婚事由の一つ

悪意の遺棄は裁判上の離婚理由の一つです。離婚は次の手順で進めていきますが、協議、調停の段階(①、②)で相手が離婚に合意せず離婚を成立させることができなかった場合には、悪意の遺棄を理由に離婚裁判を起こし(③)、裁判での離婚を成立させることも可能ということです(※)。

①協議

②調停

③裁判

また、不貞、3年以上の生死不明、性格の不一致などほかの離婚理由がある場合は、これらとあわせて婚姻関係が破綻した(裁判上の離婚理由の一つである「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる)ことを理由に離婚裁判を起こすこともできます。

※裁判では離婚を請求する側が「悪意」及び「義務違反の事実」を証拠によって証明する必要があります。

修復か?離婚か?

相手に悪意の遺棄にあたる行為に出られたとしても、少しでも婚姻関係を続ける意思があるのであればまずは修復の道を目指してみましょう。あなたから変わっていく姿勢を示すことができれば、時間はかかりますが相手も変わり、もとの関係に修復できる可能性は十分にあります。

相手が勝手に家を出ていった、家に帰ってこない、家に帰ってくる日とこない日にばらつきがあるという場合は不倫の疑いがあります。もし不倫が疑われる場合は不倫の証拠も集め、修復か離婚かを決めた後に、話し合いの機会をもうける必要があります。修復を選択する場合は、不倫相手が二度とパートナーと接触しないよう対策をとることも必要です。

一方、婚姻関係を続ける意思がない場合は相手に離婚(別居)を切り出す前に離婚(別居)の準備を進めていきます。先ほどの証拠集めのほか、離婚(別居)後の収入に不安がある場合は就職・転職に向けた活動が必要です。今現在相手に生活費を入れてもらわず困っている場合は、離婚(別居)後も生活費を入れてもらえる見込みは低いという前提で準備を進めていきましょう。

悪意の遺棄をした側からの離婚請求は認められない

なお、悪意の遺棄をした側(有責配偶者)から離婚を迫られることがありますが、悪意の遺棄をした側からの離婚請求は基本的には認められていません。自ら夫婦の義務を怠りながら離婚を認めることはあまりにも勝手が良すぎるからです。

もし、離婚したくても「今は離婚するタイミングではない」と考える場合は離婚を拒否し、別居した上で、生活費(婚姻費用)を請求しながら離婚に向けた準備を進めることも一つの方法です。

悪意の遺棄は慰謝料請求の対象

悪意の遺棄は不貞やDVなどと同様に民法上の不法行為にあたります。したがって、悪意の遺棄によって精神的苦痛を受けた場合には慰謝料請求することが可能です。

悪意の遺棄の慰謝料は「50万円~300万円」が相場ですが、実際の金額は、悪意の遺棄の悪質さ、期間の長さ、子どもの有無・人数、相手の認否・反省の程度などの諸要素を考慮して決めることとなります。

なお、上記の相場はあくまで調停、裁判まで手続きが進んだ場合に裁判所が基準とする金額です。協議の段階では相場にとらわれる必要はなく、相手と話し合って自由に決めることができます。

悪意の遺棄を証明する証拠

悪意の遺棄を理由に

  • 離婚
  • 慰謝料請求

を考えている場合は、裁判まで手続きが進んだ場合のことを想定して、相手に離婚(別居)を切り出す前から以下のような悪意の遺棄を証明する証拠を集めておく必要があります。裁判で離婚請求する場合も慰謝料請求する場合も、請求する側が悪意の遺棄を証明する必要があります。

同居義務違反の証拠
・別居したことがわかる住民票
・別居している家の賃貸借契約書
・別居の経緯を記した日記、メモ
・同居を拒否したことがわかるメール、音声データ
・一方的に家出したことがわかるメール、音声データ など

扶助義務違反の証拠
・源泉徴収票(※相手が会社勤めの場合)
・給料明細書
・預金通帳
・浪費がわかるクレジットカードの利用明細、領収書
・ギャンブルにふけっていることがわかる写真、動画 など

協力義務違反の証拠
・家事放棄、育児放棄がわかる写真、動画
・生活状況を記録した日記、メモ など

なお、離婚や慰謝料請求するにあたって、他にも離婚理由や離婚条件に関して集めておくべき証拠があるかもしれません。悪意の遺棄以外の証拠は以下の関連記事で詳しく解説しています。

まとめ

今回のまとめです。

  • 悪意の遺棄とは、正当な理由なく、夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務に違反すること
  • 具体例で悪意の遺棄にあたる場合、あたらない場合をチェックしよう
  • 悪意の遺棄は裁判上の離婚事由の一つ
  • 原則、悪意の遺棄をした側からの離婚請求は認められない
  • 悪意の遺棄は慰謝料請求の対象となる行為
  • 離婚、別居する前に悪意の遺棄を証明する証拠を集めておきましょう