• 有責配偶者ってどんな配偶者ですか?
  • 有責配偶者が離婚することはできますか?
  • 有責配偶者から離婚を迫られたときはどう対処すればいいですか?
  • 相手が有責配偶者で何か有利になることはありますか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

夫婦関係が破綻したことについて相手に離婚原因がある場合は、あなたから相手に離婚を求めることが多いと思います。ところが、実際には、その逆のパターン、つまり、離婚原因を作った相手から離婚を迫られることもあります。

ここであなたが離婚に合意すれば離婚は成立しますが、離婚したくないとして離婚を拒否したとしても、離婚が成立してしまうことはあるのでしょうか?この問題が「有責配偶者からの離婚請求」という問題です。

今回は、はじめに有責配偶者とは何かを解説した上で、有責配偶者が離婚することはできるのか、有責配偶者から離婚を迫られたときに備えてどんなことをやっておくべきか、離婚の話し合いで有利になることはあるのか、といったことについて解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
離婚・夫婦問題のみを取り扱う行政書士です。夫婦トラブルの相談(カウンセリング)、離婚・不倫関係の各種書面の作成などに対応しています。自身も2児の父親として子育て真っ最中です。「依頼してよかった」と思っていただけるよう、誠心誠意、最後まで責任をもって対応いたします。
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有責配偶者とは

まず、有責配偶者とは有責行為によって主たる離婚原因を作った配偶者のことをいいます。有責行為は、

  • 不貞
  • DV、モラハラ
  • 悪意の遺棄
  • 虐待

などが典型例です。

こうした有責行為は裁判上の離婚理由のほか、民法上の不法行為にあたり、慰謝料請求の対象となる可能性もあります。一方、性格の不一致など、配偶者を一方的に非難することができない理由で離婚する場合は、配偶者を有責配偶者と考えることは難しいでしょう。

有責配偶者からの離婚請求は認められる?

配偶者から有責行為を受けたあなたが離婚を求めることができるのは当然ですが、ときに有責配偶者の方から離婚を求められることがあります。もちろん、有責配偶者であっても離婚を求めることは可能ですし、あなたが離婚に合意すれば離婚は成立します。

問題はあなたが離婚を拒否したときに有責配偶者が裁判で離婚できるかですが、この点は「難しい(不可能ではない)」というのが結論です。なぜなら、この場合に離婚を認めてしまうと、裁判所が有責行為を許す形になってしまい、わざと有責行為をして離婚してやろうと考える人が出てくる可能性もないとはいえないからです。

有責配偶者からの離婚請求が認められるケース

もっとも、次のようなケースでは、有責配偶者であっても離婚することができます。

離婚に合意した場合

まず、先ほど述べたとおり、あなたが離婚に合意した場合です。

話し合い(協議)であなたが離婚に合意するのであれば、配偶者が有責配偶者かどうかに関係なく離婚できます。あなた、あるいは配偶者が離婚調停を申し立て、調停で合意した場合も同様です。

和解で離婚する場合

次に、和解で離婚する場合です。

話し合い(協議)や調停で離婚が成立せず、配偶者から離婚裁判を提起され、手続きの途中で裁判所から和解をすすめられた場合に、あなたが離婚に合意すれば和解で離婚することができます。和解せず判決にまで至った場合は、配偶者の離婚請求は棄却される可能性が高いです。

別居が長期間にわたる場合

次に、別居が長期間にわたる場合です。

かつて、最高裁判所は有責配偶者からの離婚請求を認めていませんでしたが、その後、考え方をあらため、一定の基準を満たす場合には、有責配偶者からの離婚請求を認めるようになっています(最高裁判例昭和62年9月2日)。

その基準の一つが別居期間です。どの程度の期間が必要かはケースバイケースで判断されますが、過去の判例、裁判例からすると、少なくとも4年前後の別居期間は必要のようです。

相手の生活を考えた提案・合意をした場合

また、別居期間のほか、有責配偶者が

  • 長期間にわたって養育費を払い続ける合意をする(それだけの経済力がある)
  • 住宅ローンを負担して、自分名義の家・マンションに無償で住まわせる
  • 相場を大幅に超える慰謝料を一括で払う合意をする

など、相手が離婚しても困らないように相手の生活を考えた提案をし、かつ、提案した内容を確実に実行できるだけの能力・体制を整えなければいけません。自ら非難される行為をしているわけですから、有責配偶者が離婚を望む場合は不利な条件を飲まざるをえません。

有責配偶者から離婚を迫られたときに備えての対処法

このように、有責配偶者が離婚するにはあなたの同意を得るか一定の基準をクリアする必要があり、有責配偶者が離婚するためのハードルは高いといえます。

もっとも、有責配偶者から離婚を切り出すことは禁止されているわけではなく、実際に有責配偶者から離婚を切り出されるケースはよくあります。

そこで、ここでは、万が一有責配偶者から離婚を切り出されたときのために備えて今からやっておいた方がいいことについて解説していきたいと思います。

証拠を集める

まず、配偶者が有責配偶者であること(配偶者の有責行為)を証明する証拠を集めておくことです。

あなたがいくら不貞などの有責行為によって苦しんでいたとしても、有責行為を証明できる証拠を集めていなければ、何も事情を知らない第三者に配偶者が有責配偶者であることを説明し納得させることができません。まずは、配偶者が有責配偶者であることを証明するためにも証拠を集めておく必要があります。

また、証拠を集めておけば、あなたの好きなタイミングで離婚することができます。配偶者から離婚を切り出されても、「今は離婚するタイミングではない」と考えるならば離婚を拒否すればいいでしょう。反対に、離婚を望むのであればあなたから離婚を切り出す手もあります。有責配偶者から離婚を拒否されても、有責行為は裁判上の離婚理由にあたるため、いずれは離婚を成立させることができます。

別居の準備をする

次に、証拠集めと並行して別居の準備をすることです。

相手が有責配偶者であれば、いずれは別居せざるを得ない状況になるかもしれません。ただ、ひとことで別居するといっても、その前にやるべきことが山ほどあり、準備までに時間がかかります。

相手に別居を切り出してから準備を始めても、別居を急ぐあまり準備不足のまま別居してしまい、別居したことに後悔してしまったり、別居後の離婚の話し合いで後手を踏んでしまう可能性もあります。

そのため、証拠集めと並行して、まずは別居するためにどんな準備が必要か、準備にどれくらいの時間がかかるのか、ある程度予測を立てた上で、計画的に準備を進めていくことが大切です。

別居の準備と離婚の準備は被るところが多いですから、結果的に別居しなかったとしても無駄になることはありません。別居の準備=離婚の準備と考えておけばよいでしょう。

※別居中は婚姻費用(生活費)を請求できる
有責配偶者よりも年収が低い場合、別居後に子どもと一緒に生活する場合は、有責配偶者に対して婚姻費用の支払いを請求できます。有責配偶者の支払義務は別居解消(同居又は離婚)まで続きます。婚姻関係が破綻していても同様です。なお、有責配偶者からの婚姻費用の請求は制限されることがあります。自ら別居の原因を作っておきながら婚姻費用を請求するのは、あまりにも虫が良すぎる話だからです。

離婚では離婚慰謝料を請求しよう

有責配偶者から離婚を切り出された、あなたから有責配偶者に離婚を切り出した、いずれのケースにせよ、離婚に合意できたら、慰謝料を含めた離婚条件について話し合う必要があります。

もし、有責配偶者から離婚を切り出された場合は、「慰謝料○○○万円で合意しないなら離婚に応じない」と離婚を拒否しつつも、慰謝料の増額を主張することも方法の一つです。そのためにも、先ほど述べたように、配偶者の有責行為を証明する証拠の確保は必須です。

相手が有責配偶者だと離婚条件で有利になる?

配偶者と話し合わなければならない離婚条件は慰謝料以外にも様々あります。では、配偶者が有責配偶者の場合、そのことをもって離婚条件で有利になることはあるのでしょうか?以下、項目別に解説していきます。

親権

まず、親権については、配偶者が有責配偶者であることをもって有利(配偶者が不利)になることは基本的にはありません

親権は親の権利とともに子どもの利益を守るためにもあるものですので、あくまで「どちらの親が親権者になることが子どもにとってよいか」という観点から親権を決める必要があるからです。

配偶者が有責配偶者であっても、普段から子どもと関わり、子どもとの間に信頼関係を築くことができている場合は親権を獲得できることは十分に考えられます。

もっとも、不貞(不倫・浮気)に夢中になるあまり家事・育児を放置していた、子どもに虐待を加えていたなど、親権者として不適切な事情が認められる場合には親権を獲得することは難しくなるでしょう。

養育費

次に、養育費についても、配偶者が有責配偶者であることをもって、有責配偶者に払わなくてよいとか相場より低い金額しか払わなくてよい、ということにはなりません

養育費は親の子どもに対する扶養義務を根拠に負担するもので、親の有責行為とは関係ありません。子どもと離れて暮らす親の子どもに対する扶養義務は離婚後も免除されず、養育費を負担し続けなければいけません。たとえば、有責配偶者の妻が離婚後子どもと暮らす場合でも、元夫は妻に養育費を払わなければいけないということです。

また、反対に、配偶者が有責配偶者であることをもって、養育費を増額できるわけではありません。たとえば、子ども離れて暮らす親が有責配偶者の場合、相手が有責配偶者だからという理由で養育費を増額することはできないということです(ただし、他の離婚条件との兼ね合いで、離婚の話し合いのときに相場より高い養育費を請求することは考えられます)。

なお、離婚後、有責配偶者が子どもと暮らす場合、相手に対する養育費の請求権と相手の有責配偶者に対する請求権が対立することになりますが、両者を相殺することはできません。養育費の請求権はあくまで子どものための権利であるため、大人の都合により発生した権利との相殺にはなじまないからです。

財産分与

次に、財産分与についても、配偶者が有責配偶者であることをもって有利になることは基本的にはありません

財産分与とは、婚姻後から別居又は離婚時までに、夫婦で協力して築いたと認められる財産(共有財産)を離婚時に清算する(分け合う)、というもので、配偶者の有責行為によって共有財産が増えたり減ったりすることはないからです。そのため、有責配偶者であっても財産分与請求権を取得し、他方配偶者に対してお金を請求することができます。

もっとも、財産の清算の方法は夫婦で話し合って自由に決めることができます。たとえば、有責配偶者が慰謝料を払えるだけの資力がない場合に、慰謝料を払う代わりに有責配偶者名義の不動産を譲ったり、有責配偶者の分与割合を少なめにするなど、ある程度柔軟な形で財産を分け合うことは可能です。

面会交流

最後に、面会交流についても、配偶者が有責配偶者であることのみをもって禁止、制限することはできません

面会交流も、養育費と同じく、子どものためという側面がありますので、親の都合で面会交流を禁止、制限すべきではないと考えられています。もっとも、配偶者が子どもに虐待を加えていた、子どもが真に面会交流を拒否しているなど、配偶者との面会交流を実施することが子どもにとってよくない場合は、面会交流は禁止すべきです。

面会交流には配偶者と直接会う面会の方法のほか、電話や手紙などのやり取りをする間接交流や間に第三者機関を間に挟む方法があります。面会に負担を感じる場合はまずは間接交流からはじめてみたり、面会を実施するにしても第三者機関を利用するなど、工夫をして面会交流を継続できないか検討してみましょう。

離婚条件がまとまったら書面の作成を

離婚と離婚条件について合意できたら、合意内容をまとめた書面を作りましょう。離婚後の言った、言わないのトラブルを防止できます。養育費や慰謝料、財産分与を分割で請求する旨の合意をしたときは、未払いを防止するためにも離婚公正証書を作ることをおすすめします。

有責配偶者に関するQ&A

最後に、有責配偶者に関してよくある質問にお答えします。

有責配偶者から婚姻費用を請求されました。払わなければいけませんか?

婚姻費用とは婚姻期間中に発生する費用(生活費)のことです。別居してから別居を解消する(同居再開or離婚)まで、年収の低い方、あるいは子どもを扶養する方が他方に請求できます。

ただ、有責配偶者からの請求は権利の濫用として認められないか、金額を減額されることが多いです。なお、子どもに対する扶養義務は免除されませんので、養育費相当分のお金は払う必要があります。

配偶者のDVが酷く、会社の上司に相談していたところ親密な関係になり、肉体関係をもってしまいました。私からの離婚請求は認められますか?

お互いが有責の場合は、お互いに責任をなすり付け合うことが多く、婚姻関係の修復が不可能であることは明らかで、離婚請求が認められる可能性はあるといえます。

特に、今回のように、配偶者の有責行為を原因として有責行為に至ったようなケースでは、裁判でその因果関係を証明することができれば、請求が認められる可能性は高いといえます。

もっとも、あなたも有責行為を行っており、当然に請求が認められるとは限りませんから、あらかじめ相手の有責性を裏付ける証拠を集めたり、別居期間を設けるなどの対策が必要となるでしょう。

まとめ

今回のまとめです。

  • 有責配偶者とは不倫などの有責行為をした配偶者のこと
  • 有責配偶者からの離婚請求は認められないのが基本
  • 有責配偶者の有責性を証明する証拠を集めておく、別居の準備を進める
  • 相手が有責配偶者であることと養育費などの離婚条件とはわけて考えるのが基本
  • 慰謝料などを分割で請求するときは離婚公正証書を作っておく