• 親権と監護権の違いは何ですか?
  • 親権と監護権をわけることはできますか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

親権という言葉を聞いたことがある方は多いと思いますが、監護権という言葉は聞いてことがない、聞いたことはあるけど意味がわからない、という方も多いのではないでしょうか?

そこで、今回は、親権や監護権の意味、親権と監護権の違いについて解説した上で、離婚するときに親権と監護権をわけることができるのか、わけるメリット・デメリットは何なのか、などについて詳しく解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
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親権は身上監護権と財産管理権から成る

親権とは、親が未成年者(18歳未満の子)に対して監護・教育を行ったり、子どもの財産を管理する権利義務のことです。親権は身上管理権財産管理権という2つの権利義務から成ります。

身上管理権は子どもの身の回りの世話をし教育する権利義務のことをいいます。一方、財産管理権は子ども名義の財産を管理したり、親が子どもの代理人となる権利義務のことをいいます。

親権=身上管理権+財産管理権

親権と監護権との違い

監護権とは身上監護権のことです。つまり、監護権は親権の一部ということになります。身上管理権は監護教育権、居所指定権、懲戒権、職業許可権から成ります。

【監護権(身上監護権)の内容】
監護教育権:子どもと一緒に住み、子どもを見守り教育していく権利義務
居所指定権:子どもをどこに住ませて生活させるかを決める権利義務
懲 戒 権:必要な範囲で教育したり、しつける権利義務
職業許可権:子どもが職業に就く際に許可する権利義務

一方、財産管理権は包括的な財産管理権、法律行為に関する同意権、身分行為の代理権から成ります。

【財産管理権の内容】
包括的な財産管理権:子どもの代わりに財産を管理する
法律行為に関する同意権:子どもがお金のやり取り、契約をすることに同意する
身分行為の代理権:進学、結婚、改姓の際に子どもに代わって手続きする

親権と監護権はわけることができる

実務上は、一方の親が親権(身上監護権と財産管理権の双方)をもつことがほとんどですが、法律上は、親権から監護権を分離させることも認められています

離婚の話し合いにおいて親権から監護権を分離させるのは、どちらの親が親権者となるかについてどうしても夫婦で合意できない場合です。離婚するときには必ず、親権者について合意しなければならず、合意できない場合は離婚を成立させることができません。

もっとも、離婚には合意できているのに、親権について合意できないがために離婚の成立を長引かせてしまうのは、夫婦はもちろん、子どもたちにとってもいいことではありません。

そこで、親権をめぐる争いごとに終止符を打つため、最終的な手段として親権から監護権を分離させるという選択がとられることがあります(※)。親権と監護権とをわけた場合、一方の親が親権者(非監護親)となり、他方の親が監護者(監護親)として子どもたちと生活していくことになります。監護親は非監護親に対して養育費を請求できます。

※ただし、親権から監護権を分離させることは、将来、親同士のトラブルや子どもへの混乱を招くおそれがあります。どうしても親権について合意できない場合に最終的な手段という位置づけでいた方がよいでしょう。

親権と監護権をわけるメリット

では、親権から監護権を分離させることにどのようなメリットがあるのでしょうか。監護権をもつ親(監護親)と監護権を除いた親権のみをもつ親(非監護親・親権者)にわけてみていきましょう。

監護親のメリット

まず、監護親にとってのメリットは二つあります。

一つ目は、早期に離婚を成立させることができることです。親権について合意できない限り離婚できません。一方、親権を相手に譲ることで相手が譲歩し、離婚の成立をはやめることが期待できます。特に、相手が親権をもつことが難しい状況下(※)では、親権でもめることは相手にとって得策ではなく、譲歩を引き出しやすいといえます。

二つ目は、養育費をきちんと払ってもらいやすくなることです。相手から親権を奪うと、相手の子どもに対する興味・関心が薄れ、それが養育費の未払いにつながってしまう可能性があります。一方、相手に親権を譲ることで、相手の子どもに対する親権者としての自覚と責任を継続させ、それが養育費の支払いにつながることが期待できます。

※これまで子育てに関わってきてない、離婚後の養育環境が整っていないなど

非監護親のメリット

一方、非監護親にとってのメリットは、親権という権利を取得したという安心感を得られることです。

監護親が親権ももつ場合、他方の親としては「相手に子どもを奪われた」、「子どもと永遠に会えなくなるのではないか」などという不安をもってしまい、親権を奪われまいと抵抗する傾向にあります。

しかし、少なくとも親権をもつことで、「子どもと別れたわけではない」、「自分も子どもとつながっている」という安心感と「自分も子どもの親」という自覚を持ち続けることができ、親権をめぐって相手と争わずに済む可能性があります。

親権と監護権をわけるデメリット【監護親】

次に、監護親からみた親権から監護権を分離させるデメリットについてみていきましょう。

子どもの苗字の変更手続きができない

まず、子どもの苗字の変更手続きができないことです。

もし、子どもの戸籍が相手を筆頭者(※)とする戸籍に入っている場合、子どもの戸籍を相手の戸籍から外すには、まずは家庭裁判所に対して子どもの苗字を変更するための申し立てをして変更の許可を得る必要があります。しかし、子どもが15歳未満の場合、この申し立てを行うことができるのは監護者ではなく親権者です。

つまり、いくら監護親が子どもの苗字の変更や子どもの戸籍を相手の戸籍から外すことを希望したとしても、親権者が子どもの苗字を変更することについて同意しなければ子どもの苗字を変更することができません。子どもの苗字を変更できなければ、子ども戸籍を相手の戸籍から外すことはできません。

※戸籍の「本籍」の下の「氏名」に書かれてある人(多くは夫)

戸籍に監護者であることが記録されない

次に、相手を筆頭者とする戸籍に監護者であることが記録されないことです。

もし、今の戸籍の筆頭者が相手の場合、離婚後、あなたの戸籍は相手の戸籍から抜けます。ただ、その際、あなたが子どもの監護者であることは、相手の戸籍にもあなたの戸籍にも記録されません。つまり、あなたが子どもの監護者であることを公的に証明する手段がないということになります。

もし、あなたが子どもの監護者であることを証明する手段を作っておきたいときは、離婚協議書や離婚公正証書などの法的書面の中に、あなたが子どもの監護者である旨の条項をもうけておくことが対策として考えられます。

養子縁組で親権者の承諾が必要となることも

次に、再婚相手と15歳未満の子どもとが養子縁組する場合は親権者の承諾が必要となることです。

養子縁組する際に作成する養子縁組届には親権者のサインが必要となります。離婚した後、新しいパートナーを見つけ、そのパートナーが子どもとの養子縁組を希望し監護者もそれを望んでいたとしても、親権者が承諾しない限り、養子縁組することができません。

親権と監護権をわけるデメリット【非監護親】

非監護親からみた親権から監護権を分離させるデメリットは当然には面会交流が実施できるわけではないことです。

非監護親が子どもと会ったり、メールを交わすなどして離婚した後も子どもと交流を図ることを面会交流といいます。離婚するにあたっては面会交流を実施するかどうか、実施するとしてどのようなルールで実施するのか相手とよく話し合う必要があります。

しかし、相手(監護親)が面会交流を拒否すれば実施できない可能性があります。調停を申し立て実施を試みても話がまとまるには数か月程度かかることもあり、調停を申し立てたからといって面会交流をすぐに実施できるわけではありません。

親権と監護権とをわける場合の離婚協議書の書き方

もし、親権から監護権を分離させる場合は離婚協議書などの法的書面に次のような条項を盛り込んでおくことをおすすめします。

先ほど述べたとおり、親権から監護権を分離させたとしても監護者であることを公的に証明する手段がないため、いざ監護者であることを証明する必要が出てきた場合は離婚協議書などの法的書面が役に立ちます。

また、他に養育費などの金銭を分割で受け取っていく旨の合意をした場ときは離婚公正証書を作っておくことをおすすめします。ただし、離婚公正証書の強制力が及ぶのは養育費などの金銭の合意に関してのみです。

つまり、もし離婚公正証書を作っていて親権をもつ相手に子どもを奪われたとしても、離婚公正証書を根拠に強制的に相手から子どもを奪うことができるわけではない点に注意が必要です。

第○条(親権・監護権)
1 甲乙間の、長女●●●●(平成●●年●月●日生)及び長男●●●●(令和●年●月●日生)の親権者を、父である甲と定める。
2 甲乙間の、長女●●●●(平成●●年●月●日生)及び長男●●●●(令和●年●月●日生)の監護権者を、母である乙と定め、今後、同人のもとで監護養育する。

親権、監護権の決め方

まずは、夫婦で話し合いましょう。話し合いでは片方の親が親権(身上監護権と財産管理権の両方)をもつのか、もつ場合はどちらがもつのか、親権から監護権を分離させる場合はどちらがどの子の親権・監護権をもつのかを話し合います。

親権やその他の離婚条件で合意できず協議離婚を成立させることができない場合は「離婚調停(夫婦関係調整調停(離婚))」を申し立てて調停で話し合うこともできます。調停では調停委員という第三者が間に入って話をまとめてくれます。

また、親権から監護権を分離させることには合意できても、どちらがどの子の親権・監護権をもつかで話がまとまらないときは「子の監護者の指定調停」という調停を申し立てることもできます。

子の監護者の指定調停が不成立で終わったときは自動的に審判という手続に移行し、最終的には裁判官が親権者、監護権者となる親を決めます。

参照:夫婦関係調整調停(離婚) | 裁判所
参照:子の監護者の指定調停 | 裁判所

まとめ

今回のまとめです。

  • 親権は身上監護権と財産管理権からなる
  • 監護権とは身上監護権のこと
  • 身上監護権は「監護教育権」、「居所指定権」、「懲戒権」、「職業許可権」からなる
  • 離婚するときに親権と監護権をわけることができる
  • 親権と監護権をわけることはメリット、デメリットがある
  • 話し合いで合意できた場合は離婚協議書などの書面を作って子どもの監護権者であることを明らかにしておく
  • 話し合いができない、話がまとまらない場合は調停を申し立てることを検討する