親権喪失とは?相手の親権を奪う条件や手続き、停止との違いを解説

  • 相手から親権を奪うことはできますか?
  • 相手の親権の効力を失わせるにはどうしたらいいですか?
  • 親権の喪失と停止の違いは何ですか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

離婚のときに、相手が親権をもつことに合意した、調停や裁判で相手が親権をもつことになった、という場合でも、やはり親権をもつことを諦めきれずにこのような疑問、悩みを抱く方も多いのではないでしょうか?

そこで、今回は、相手の親権を失わせる親権喪失や親権を喪失させるための条件・手続き、親権喪失と親権停止との違いなどについて詳しく解説していきたいと思います。

親権喪失とは

親権喪失とは、文字通り、親権者の親権を失わせる法制度のことです。

親権を喪失させることができる理由

親権者が親権を喪失する可能性があるのは次の場合です。なお、2年以内に理由が消滅する見込みがあるときは、親権喪失しない場合があります。

虐待、悪意の遺棄が行われた

一つ目に、親権者が子供に虐待や悪意の遺棄を行った場合です。

ここでいう虐待とは、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待のことを指しています。身体的虐待、心理的虐待、性的虐待の例は次のとおりです。

身体的虐待

・・・殴る、蹴る、投げ落とす、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さづりにする、異物を飲ませる、食事を与えない、冬戸外にしめだす、一室に拘束する、タバコの火やアイロンを押し付ける など

心理的虐待

・・・言葉による脅かし、脅迫、子供の心を傷つけることを繰り返し言う、子供の自尊心を傷つけるような言動、他の兄弟姉妹とは著しく差別的な扱いをする、配偶者に対するDVを子供の目の前で見せる など

性的虐待

・・・子供への性交、性的暴行、性的行為の強要・示唆、性器や性交を見せる、ポルノグラフティーの被写体などに子供を強要する など

次に、悪意の遺棄とは、正当な理由がないのに、親権者の義務である子供の監護、養育、教育を怠ることをいいます。いわゆる「ネグレクト」と言われるものがこれにあたります。

ネグレクト

・・・食事を与えない、お風呂に入れない、汚れた衣服を着替えさせない、汚物を処理しない、学校に行かせない など

親権の行使が著しく困難又は不適当

二つ目に、親権者が親権を行使することが著しく困難又は不適当な場合です。

親権を行使することが著しく困難な場合とは、重度の精神病や薬物・アルコール中毒に罹患したなど、精神的、身体的な故障により、適切に親権を行使することが困難に近い状況のことをいいます。

親権を行使することが著しく不適当な場合とは、子供へ虐待や悪意の遺棄を行うなど、親権の行使の方法が適切さを欠くような場合や親権者に親権を行使させることが子供の健全な成長のために著しく不適当な場合をいいます。

親権を喪失させる方法

親権者の親権を喪失させるには、家庭裁判所に対して親権者喪失の審判を申し立てる必要があります。

なお、監護者として子供の世話を行っている者に虐待などがあった場合は、家庭裁判所の審判を経ることなく、親同士の話し合いで監護者を変更することができます。話し合いができない、変更について合意できない場合は、家庭裁判所に対して監護者変更の調停、審判を申し立てることができます。

申立てできる人(申立人)

・・・子ども本人、一方の親、子どもの親族、未成年後見人、未成年後見監督人、児童相談所長、検察官

申立て先の裁判所

・・・子どもの住所地を管轄する裁判所

申し立てに必要なもの ※裁判所に要確認

・・・申立書、子供の戸籍謄本、申立人の戸籍謄本、相手方の戸籍謄本(子供と同一戸籍の場合は不要)、審判を求める理由を示す資料、収入印紙代、郵便切手代

裁判所に申し立てが受理されると、裁判所から申立人に審問期日(裁判所で詳しく話を聴くための日時)が通知されます。申立人は審問期日に出頭し、裁判官の質問に答えるなどして対応します。一方相手方にも反論の機会が与えられます。

また、場合によっては、家庭裁判所調査官の調査が入り、その結果を踏まえてさらに裁判官が当事者から話を聴くなどしていきます。なお、「親権制限事件及び児童福祉法に規定する事件の概-令和3年1月~12月-」によると、令和3年度中の民法第834条に基づく親権喪失の審判までにかかる期間は次のとおりとなっています。

期間1月以内1月超 2月以内2月超 3月以内3月超 4月以内4月超 5月以内5月超 6月以内6月超
914911241841

合計件数(126)

全体の約3割が6月を超える審理期間を要しています。

審判前の保全処分

このように、親権を喪失させるか否かの審判が確定するまでには一定の期間を要しますが、その間、子供が親から虐待を受けるようなことがあってはなりません。

そこで、直ちに親権者の親権を停止させる必要性・緊急性が認められるときは、審判の申立てとともに審判前の保全処分の申し立てを行います

保全処分の申立てが認められると、審判の結果が出るまでの間、親権者の親権が停止され、裁判所が親権を代わりに行使する者(職務執行者)を選びます。申立人が職務執行者に選ばれることもあります。

なお、保全処分の申立てが却下された場合は、申立人は、その告知を受けた日から2週間以内に、裁判所に不服を申し立てる(即時抗告する)ことができます。

一方、保全処分の申立てが認められた場合は、相手方も不服を申し立てることができます。この場合は保全処分の執行停止の申立てもあわせて行われます。

親権喪失の審判が確定した後はどうなる?

ここからは、親権を喪失する審判が確定した(不服申し立てできなくなる状態になった)後生じる効果について解説していきます。

親権者が親権を失う

まず、親権者は親権を失います

すなわち、親権者は子供と一緒に住んだり、子供の財産を管理することができなくなります。ただ、親権を失ったからといって法律上の親子関係が失われるわけではありません。そのため、法律上の親子関係であるがゆえに発生する

  • 子の親の財産に対する相続権
  • 親、子同士の扶養義務
  • 未成年者の子の婚姻や特別養子縁組の同意権

などは失われません。

婚姻中で共同親権だった場合

婚姻中で、父母が共同して親権を行使していたものの、たとえば、父親が親権を喪失した場合は、母親が単独の親権者となります。

一方、父母双方が親権を喪失した場合は、未成年後見人を選任する手続きが開始されます。

未成年後見人とは、親権を行使する人がいない場合に、代わりに子供の身の回りの世話をしたり、財産を管理したりする人のことです。

離婚後、単独親権だった場合①

離婚後、父または母が単独の親権者で、もう片方の親が親権をもつことを望む場合は、家庭裁判所に対して親権者変更の調停(または審判)を申し立てる必要があります

親権者喪失の審判が確定すると自動的に親権が片方の親に移るわけではないことに注意が必要です。

離婚後、単独親権だった場合②

離婚後、父または母が単独の親権者で、もう片方の親が親権者とならない場合は、家庭裁判所が未成年者後見人を選任する手続きが開始されます。

未成年後見人には、児童相談所長、弁護士などの個人のみならず、社会福祉法人などの法人も選任されることがあります。また、未成年後見人は複数選任されることがあります。

なお、親権を喪失した親は未成年後見人に選任されることはありません。

親権喪失しても親権が復活する?

このように、親権喪失の審判が確定すると親権者は親権を失いますが、実は、その親権者に親権が復活することがあります。それが、親権を喪失させる旨の審判が取り消された場合です。

民法第836条では、

  • 虐待又は悪意の遺棄を行うおそれが消滅したとき
  • 親権の行使が著しく困難又は不適当と認められる事情が消滅したとき

は親権を喪失させる旨の審判が取り消されることがあると規定しています。

ただし、本人(親権喪失前の親権者)またはその親族が、家庭裁判所に対して親権を喪失させる旨の審判を取り消すよう請求し、家庭裁判所がこの請求を認める必要があります。

親権停止とは

ここまで親権喪失について解説してきましたが、ここからは親権停止について解説していきます。

親権停止とは、一定期間(2年を超えない範囲で家庭裁判所が定める期間)、親権者の親権を停止させる法制度のことです。

親権停止は、親権喪失の制度が親権者から親権を奪うという厳しい制度で、申立てがほとんど行われてこなかった現状等に鑑み、2011年の法改正によって新設された法制度です。

親権喪失では、親権を喪失させる旨の審判が取り消されない限り親権は復活しませんが、親権停止では、一定期間が経過した後は親権者に親権が復活する点が異なります(もっとも、親権停止にも、前述した審判の取り消しの制度があります)。

親権を停止したい場合も、親権喪失と同様、家庭裁判所に対して親権停止の審判を申し立てる必要があります。

まとめ

親権者喪失は、家庭裁判所の審判によって、親権者の親権を失わせる法制度です。親権者の親権を喪失させるには、家庭裁判所に対して親権者喪失の審判を申し立てる必要があります。

離婚後、相手の親権を喪失させ、ご自分に親権を移したい場合は、あらためて家庭裁判所に対して、親権者変更の調停(または審判)を申し立てる必要があることもおさえておきましょう。

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投稿者プロフィール

小吹 淳
小吹 淳
離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。