親権者変更 | できる場合・できない場合、手続き、注意点などを解説
- 一度決めた親権者を変更することはできますか?
- できる場合、できない場合を教えてください
- 親権者を変更するには何をすればいいですか?
この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。
離婚するときに相手に親権を渡した、奪われたという場合でも、やはり諦めきれずに親権を取り戻したい、親権者を変更したいと考える方もおられるのではないでしょうか?
そこで、今回は、離婚後に親権者を変更することができるのか、できるとしてどんな場合に変更でき、どんな場合に変更できないのか、変更するにはどんな手続きが必要か、などについて詳しく解説していきたいと思います。
目次
親権者は変更できる?
結論から申し上げると、離婚後、親権者を変更することは可能です。
民法という法律の第819条6項には次のように規定されています。
(離婚又は認知の場合の親権者)
第819条
1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2~5 (略)
6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
ただ、ここで注意しなければならないことは、
・親権者変更は、家庭裁判所に対して、親権者変更の請求をする必要があること
・親権者変更は「(家庭裁判所が)子の利益のため必要があると認めるとき」のみ可能である
という点です。この2点については、あとで詳しく解説します。
親の合意だけで親権者を変更できない
前述のとおり、親権者を変更するには、家庭裁判所に対して、親権者変更の請求(親権者変更の調停または審判の申立て)をする必要があります。すなわち、親の合意だけで親権者を変更することはできません。
これは、親権は子供を守るための権利でもあるため、親の合意(都合)のみで親権者の変更が可能となると、子供に悪影響を及ぼし、子供の成長を阻害してしまう可能性があると考えられているからです。
また、家庭裁判所に対して、親権者変更を請求したからといって必ず親権者が変更されるわけではありません。家庭裁判所が親権者の変更を認めてはじめて親権者を変更することが可能です。
親の合意だけで親権者を変更できる場合
もっとも、次の場合は、親の合意だけで親権者を変更することができます。
非嫡出子の親権者を、認知した父親に変更する場合
婚姻関係にない男女の間に生まれた子供を非嫡出子といいます。もともと非嫡出子の親権は母親にありますが、父親が非嫡出子を認知した場合は、親同士の合意だけで父親に親権を渡すことができます。
子供が生まれる前に父母が離婚した場合
子供が生まれる前に父母が離婚した場合、離婚後に生まれた子供の親権は母親がもちます。しかし、この場合も、親同士の合意だけで父親に親権を渡すことが可能です。
親権者変更が認められるケース
前述のとおり、家庭裁判所は、親権者変更を行うことが子の利益のために必要があると認めるときに、親権者の変更を認めます。では、子の利益のために必要があると認めるとき、とは具体的にどんなケースでしょうか?
子供が親権者から身体的虐待などの虐待を受けている場合
まず、子供が親権者から虐待や育児放棄を受けている場合です。
この場合は、もはや親権者としての適格性がありませんから、親権者変更が認められやすいといえます。なお、虐待には身体的虐待のほか、性的虐待、ネグレクト(育児放棄、怠慢)、心理的虐待があります。
子供が親権者の変更を望んでいる場合
次に、子供が親権者の変更を望んでいる場合です。
子供が小さいうち(0歳~10歳前後が目安。ただし、個人差あり)は、まだ子供に適切な親権者を選ぶほどの判断能力が備わっていませんから、子供の意向はさほど重要視されません。
一方、子供が10歳を超えてくると徐々に判断能力がついてきますから、子供の意向が参考にされるようになり、子供が15歳以上の場合は子供の意向がまず優先される(絶対ではない)ようになるでしょう。
子供の養育環境が変化する
次に、子供の養育環境が変化する場合です。
たとえば、親権者が海外赴任することになった、国内でも転勤することになったなどで、これまでと同様の子育てができなくなるおそれがある場合です。
もっとも、単に海外赴任することになった、転勤することになったというだけ親権者変更が認められるわけではありません。
上記の事実に加えて、赴任(転勤)先の環境や子供の意思などの事情も総合的に勘案して、親権者を変更することが子供の利益になるかどうかが判断されます。
親権者が死亡したら?
親権者が変更されるケースとしてはほかにも、今の親権者が死亡した場合が考えられます。一方で、民法には、親権者が死亡した場合(親権を行う者がいないとき)は(未成年)後見という制度が開始する旨の規定が置かれています(民法838条1号)。
未成年後見とは、もともとの親権者に代わって、家庭裁判所から選任された人が子供の身の回りの世話や財産を管理する法制度のことで、未成年後見を行う人のことを未成年後見人といいます。未成年後見人は親権をもちませんが、親権者と同じ権利義務をもちます。
親権者は遺言で未成年後見人を指定することができ(民法839条1項本文)、遺言で指定していなかった場合は親族等の請求によって家庭裁判所が選任します(民法840条1項)。
第838条 後見は、次に掲げる場合に開始する。
① 未成年者に対して親権を行う者がいないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
② (略)
では、たとえば、親権者である母親が死亡した場合、子供と一緒に暮らすことを望む元配偶者の父親はどのような手段を取ることができるのでしょうか?
まず、遺言で未成年後見人に指定されていなかった場合は、家庭裁判所に自分を未成年後見人に選任するよう審判を申した立てることができます。
また、元配偶者の父親は、未成年後見人の選任の審判ではなく、親権者変更の審判を申し立てることもできるとされています。なお、親権者変更の審判の申立ては別の審判で、すでに父親以外の人が未成年後見人に選任されていた場合でもできると考えられています。
親権者を変更できないケース
親権者変更できない、あるいは家庭裁判所に親権者変更の請求をしても許可されないケースとしては、
- 再婚したいので子供を手放したい
- 相手が面会交流を認めてくれない
- 相手の子育ての仕方、教育方針が間違っている
などのケースです。
やはり、親の都合や親同士の感情的な対立だけでは、親権者を変更することは難しいといえます。
親権者変更の申立てから調停成立までの流れ
ここからは、家庭裁判所に対する親権者変更調停の申し立てから調停が成立するまでの大まかな流れをみていきましょう。
①調停の申し立て
まずは、家庭裁判所に対して親権者変更調停の申立てを行います。申し立ては書面で行います。申立先の裁判所は相手方の住所地を管轄する裁判所が基本ですが、当事者で合意している裁判所があればその裁判所が申立先の裁判所となります。
申立書面には戸籍謄本などの書類を添付しなければなりませんので、あらかじめどんな書類が必要となるのか、裁判所に問い合わせるなどして確認しておきましょう。また、収入印紙や連絡用の郵便切手代も必要です。あわせて確認しておきましょう。
②調停
申立書が裁判所に受理されると裁判所に行く期日(日時)を調整します。調整した後、期日が書かれた書面が裁判所から住所宛に郵送で送られてきます。期日には、指定された場所、時間に出席します。
期日では、申立人、相手方それぞれ別々に、調停委員から話を聴かれます。また、家庭裁判所調査官の調査が行われ、調査の結果が裁判所に提出されることがありますから、調停委員のほか調査官への対応も大事になります。
期日は、親権者変更に合意できるまで、1か月に約1回のペースで入ります。
③調停成立or審判
話し合いの結果、申立人、相手方双方が親権者変更に合意し、裁判所が親権者を変更することが相当だと認めた場合は調停が成立します。
一方、調停での話し合いが見込めない場合や調停で親権者変更に合意できなかった場合は自動的に審判という手続に移行します。審判では、調停での話し合いの内容や調査官の調査結果などを踏まえて、裁判官が親権者の変更について判断します。
なお、裁判官の判断に不服がある場合は不服を申し立てる(即時抗告する)ことができます。即時抗告した場合は審理は高等裁判所に引き継がれ、高等裁判所で親権者を変更するかどうか判断されます。
親権者変更が認められた後は届出が必要
調停成立、または審判の確定(※)によって親権者を変更することが確定した場合は、そのときから10日以内に、役所の戸籍係に親権者変更の届出をする必要があります。
※審判の日の翌日から起算して14日間の不服申立て期間を経過した日に確定します。
届出をする人
届出をする人は、新たに親権者となった人です。
届出をする役所
届出をする役所は、届出人の住所地の役所、子供の本籍地がある役所、のいずれかで行うことが通常です。前者の役所で行う場合は子供の戸籍謄本が、後者で行う場合は届出人の戸籍謄本が必要となります。
必要なもの
届出の際に必要なものは、
- 親権者変更の届出書
- 調停調書の謄本(調停成立の場合)
- 審判書の謄本と確定証明書(審判確定の場合)
- 印鑑
- 戸籍謄本
です。詳細は届出をする役所の戸籍係に問い合わせた方が確実です。なお、調停調書の謄本と確定証明書は裁判所から取り寄せる必要があります(審判書の謄本は裁判所から自宅に送られてきます)。
子供の戸籍を親権者の戸籍に入れるには入籍届が必要
親権者変更の届出のほかにもう一つ必要な届出があります。それが、入籍届です。ここでの入籍届とは、子供の戸籍を変更後の親権者の戸籍に入れるための届出のことです。
もっとも、入籍届をする前に、まずは、子供の姓を変更する必要があります。異なる姓の者同士を同じ戸籍に入れることができないためです。また、子供の姓を変更するには家庭裁判所に対して変更許可の申し立てを行い、許可を得る必要があります。
親権者変更が認められなかった場合の対応
親権者変更調停を申し立てたとしても、必ずしも親権者の変更を認めてもらえるとは限りません。そこで、最後に、万が一親権者変更を認めてもらえなかった場合の対応をみていきましょう。
面会交流を実施する、条件を見直す
一つ目に、面会交流を実施していない場合は実施すること、あるいは実施している場合は面会交流の条件を見直してみることです。親権を得られないのであれば、面会交流は子供と交流を図るとても大切な機会です。
もっとも、相手と親権をめぐって争った場合は、面会交流についても話がなかなかうまく進まない可能性があります。もし、話がまとまらない場合は、親権と同様に調停で解決を図っていくことになります。
再度調停を申し立てる
二つ目に、再度調停を申し立てることです。
親権者変更が認められなかったからといって、再度調停を申し立ててはいけないという決まりはありません。前回の調停で現れなかった事情が見つかり、子供のために親権者を変更すべきと考えるのであれば、再度調停を申し立ててもよいでしょう。
もっとも、前回の調停から間なく調停を申し立てても、調停そのものを開いてくれない可能性があります。再度調停を申し立てるとしても、申立ての前に、申立ての内容等を十分に検討しておく必要があります。
まとめ
親権者を変更することは可能ですが、どんな場合でも変更できるわけではありません。また、親の合意、都合だけで変更できるわけではない点にも注意が必要です。
親権者を変更することについて親同士で合意できるとしても、親権者を変更するには、必ず家庭裁判所に調停を申し立て、裁判所に親権者を変更することについて認めてもらう必要があります。
裁判所に親権者を変更することを認めてもらった場合は、変更の届出や入籍の届出も忘れずに行っておきましょう。
投稿者プロフィール

- 離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。
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