• 父親が親権をもつことはできますか?
  • 父親が親権をもつことは難しいですか?
  • 父親が親権をもつには何をやるべきですか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

まず、結論から申し上げると、父親が親権を得ることは難しいのが現実です。このことは、次のデータでも証明されています。

【表①】

年度総数父が全児の親権者母が全児の親権者その他
2016125,98315,035106,3474,601
2017123,41814,558104,4404,420
2018120,49714,330101,8624,305
2019118,66414,156100,2424266
2020111,33513,12694,2913,918

【引用:2020年 厚生労働省 人口動態統計 「親権を行う子をもつ夫妻(夫―妻)別にみた年次離婚件数及び百分率

【表②】

総数父が親権者母が親権者定めなし
19,9151,795(66)18,678(37)62

【引用:令和3年司法統計(家事事件編)「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件のうち「子の親権者の定め」をすべき件数―親権者別―全家庭裁判所

( )は母又は父の監護者の数

一方、数は少ないとはいえ、親権を得ている父親がいることも事実ですから、はじめから諦める必要はありません。今回は、父親が親権をもつためにやっておくべきことや親権の決め方、万が一親権をもつことができなかった場合の対処法について解説していきたいと思います。

【表①】の人口動態統計は、離婚届に書かれた内容を「市区町村→都道府県→厚生労働省」という流れで厚生労働省が取りまとめた集計結果で、協議、調停、審判、裁判すべての離婚方法による結果が反映されています。一方、【表②】は調停または審判のみの結果が反映されています。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
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父親が親権を得ることが難しい理由

では、そもそもなぜ父親が親権を得ることが難しいのでしょうか?その理由から解説したいと思います。

監護状況、監護実績が乏しいから

まず、今現在主に子育てしているのが母親で、これまで子育てを担ってきたのは母親だからというのが一番大きな理由です。

今現在子育てを担っている親、これまで子育てを担ってきた親の方が子育ての仕方や子どものことをよくわかっており、離婚した後もこれまでと変わらず意欲的に子育てしていけると考えられます。

また、子どもの母親に対する信頼も厚く、絆も強いため、子どもも母親との生活を望む傾向にあります。そうした中、離婚を機に子どもと母親とを離れ離れにすると子どもに悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。

近年は、父親が主に子育てを担当する家庭も増えてきているとはいえ、それでもまだ、父親は外で仕事し、母親が主に子育てを担当するという家庭の方が多いのではないでしょうか?

そうすると、父親の子育てに関わる時間は母親よりも必然的に少なくなり、子どもとの絆をなかなか深めることができず、子どものことを考えると母親に親権をもたせた方がよいという判断になってしまうのです。

母性優先の原則が働くから

次に、母性優先の原則が働くからです。

母性優先の原則とは、原則として、母性のある親に親権をもたせた方がよいという考えです。特に、子どもが0歳~10歳前後までの間は、父親よりも母親の方が子どもと触れ合う機会が多く、子どもとの絆の強さや子供からの信頼度が父親よりも優れています。

もっとも、「母子」ではなくあえて「母性」と言われている点に注意が必要です。これは父親でも子どもに愛情をもって接していれば母性を発揮でき、父親に親権をもたせた方がいいと考えられる場面があるからです。

父親が親権を得るための6つポイント

このように、親権では父親が不利な状況の中、父親が親権を得るには普段から何に気をつけ、どのような対策をとっておけばよいのでしょうか?

子育てに積極的に関わる

まず、子育てに積極的に関わっておくことです。

たとえば、

・一緒に食事をとる
・お風呂に入れる
・休日に遊びに連れて行く
・寝かしつけをする
・保育園、幼稚園、塾、習い事への送り迎えをする
・行事、イベントに参加する
・お祝い事を主催する
・保育園、学校の連絡帳に目を通し、サインする 

など、できる限りのことは行っておきましょう。

親権でもめたときは先ほど述べた監護状況や監護実績、子ども(個人差はあるものの、おおむね10歳以上の子ども)の意思等が重要視されますから、普段から子どもと触れ合い、子どもとの信頼関係を構築し、精神的な結びつきを強めておく必要があります。

監護実績に関する証拠を残しておく

次に、これまでの監護実績を証明できる証拠を残しておくことです。

監護実績を証明できる証拠としては、

□ 日記
□ 保育園、幼稚園、学校の連絡帳
※ あなたが書いたことがわかるもの
□ 子どもと触れ合ったことがわかる写真、動画

などが考えられます。

親権でもめた場合は、親権で有利な証拠を握っていることに相手に伝えることで相手が譲歩する可能性もあります。仮に、調停→裁判と進んだ場合でも、証拠に基づいた説得力のある主張をすることができます。

離婚後の子育ての環境を整える

次に、離婚後の子育ての環境を整えることです。

離婚した後の子育てには周囲の協力は必要不可欠です。仕事や病気で子どもをみることができないとき、仕事中に子どもが病気、怪我などで早退するとき、子育てに困ったときに、親、親族などの協力を得られる人を探しておく必要があります。

離婚後の住まいも大きなポイントです。子どもが今の環境に慣れ親しんでいる場合はできる限り今の家に住み続けた方がいいでしょう。ただ、その場合、周囲の協力が得られるのか、どのような公的援助を受けることができるのかきちんと確認しておく必要があります。

一方、やむを得ず今の家から出ていく場合は、あなたの仕事や子どもの転園・転校させる必要があるかどうかなどを検討し、新しい住まいでの養育環境についてもきちんと検討し、整備しておく必要があります。

子どもと離れて暮らさない

次に、離婚前に別居する場合は子どもと離れて暮らさないことです。

繰り返しになりますが、親権でもめて調停等で親権を決めるときは今現在の監護状況が重要視されます。子どもと離れて暮らしてしまうと今現在の監護状況がないことから、相手に親権が渡ってしまう可能性が非常に高いです。

もっとも、親権を得たいからといって、相手に無断で子どもを連れて別居することは辞めましょう。相手の出方しだいでは刑事事件に発展してしまうなど大きなトラブルとなる可能性があります。

また、何より子どもが一番の被害者です。もしかしたら、子どもは母親との生活を望んでいるかもしれず、子どもの意思を無視する形で一方的に引き離してしまうと、反対に子どもからの信頼を失い、別居後の生活に支障をきたすおそれがあります。

別居するのであれば、どうすることが子どもにとって一番いいことなのか相手とよく話し合い、きちんと取り決めをしてから別居するのが基本です。どうしても折り合いがつかないようであれば、別居をしないことも選択肢の一つです。

相手に不利な証拠を集めておく

相手と親権でもめたときは、あなたが親権者としてふさわしいことを主張するとともに、相手が親権者としてふさわしくないことを主張しなければいけません。そのため、相手に次のような非がある場合は、それを証明する証拠(写真、動画、日記・メモ、ボイスレコーダーなど)を集めておくことが大切です。

  • 虐待(身体的・心理的・性的虐待、ネグレクト)
  • 不倫、浮気
  • 家事放棄
  • 浪費

一回や二回だけの事実だと「しつけの一環」、「出来心でやった(だけで今後はしない)」などと反論されてしまう可能性があるため、長期間にわたって行ってきたことを証明できるような証拠を集めておきましょう。

「虐待」以外の事実については、その事実があっただけでただちに相手を親権者としてふさわしくないと主張することは難しいかもしれませんが、他に非難できる事実があれば、それらと組み合わせることで親権者としてふさわしくないことを主張していくことが考えられます。

子どもが大きくなるまで離婚を待つ

最後に、子どもが一定の年齢になるまで離婚を待つことも考えられます。

子どもが小さい間、特に、0歳~小学校低・中学年頃までは母性(母子)優先の原則が働きますから、子どもがこの年齢の頃に離婚しても相手に親権が渡ってしまう可能性が高いです。そこで、はやくて子どもが小学校高学年になるのを待って、離婚するというのも一つの方法です。

もっとも、子どもが小学校高学年頃になると、子ども自身がどちらの親と生活したいかはっきり意思表示できるようになり、調停等でも子どもの意思が考慮されるようになります。そのため、離婚した後も「一緒に生活したい」と子どもに言ってもらえるよう、普段から子どもとよく触れ合って信頼関係を築いておくことが大切です。

父親が親権を得ることが難しい場合は?

もし、親権を得ることが難しい、親権を得ることができなかったという場合でも、次の方法で子どもとの関係を続けることができます。

親権と監護権をわける

まず、親権を父親に、監護権を妻に(あるいは、その逆)というふうに、親権から監護権をわけることはできないか相手と話し合ってみることです。もっとも、親権と監護権をわけることにはデメリットもあり、子どもに混乱を招く可能性もあることから、安易にわけることは避けるべきです。

面会交流を求める

次に、相手に面会交流を実施するよう求めることです。面会交流は子どもが離れて暮らす親からの愛情を受ける唯一の機会ですから、原則として相手は面会交流を拒否することはできません。相手が面会交流の実施することを渋っている場合は、相手が何を望んでいるのかきちんと把握し対処することが大事です。

養育費をきちんと払う

次に、養育費をきちんと払うことです。相手が面会交流の実施を渋る要因としては、養育費の未払いに対する不安を抱えるいることが考えられます。確かに、「養育費を払ってくれるならば子どもたちに会わせる」とように、養育費と面会交流を交換条件とすることはできませんが、ご自分の希望をかなえたいのであれば、相手の希望にもできる限り応えてあげることが必要といえそうです。

親権者の変更について合意する

次に、将来、親権者を変更することについて相手と話し合って合意しておくことです。あとで述べるように、親権者を変更するには調停の手続きを踏むことが必要ですが、親権者の変更について当事者間であらかじめ合意しておくことはできます。もっとも、親権者の変更を認めるかどうかは調停時点の状況を踏まえて裁判所が判断しますので、合意したからといって必ず変更できるわけではありません。

親権者変更の調停を申し立てる

次に、親権者変更の調停を申し立てることです。一度決めた親権者もあとで変更することができます。ただ、先ほども述べたとおり、夫婦の合意だけで親権者を変更することはできません。親権者を変更するには家庭裁判所に対して調停を申し立て、裁判所に親権者を変更することが子どものためになると認めもらう必要があります。

まとめ

今回のまとめです。

  • 親権では父親が不利だが、絶対に獲得できないわけではない
  • 親権を希望する場合はできる限りの対策をしておこう
  • 親権を得ることが難しくても子どもとの関係は継続できる