• 妊娠中ですが離婚しようか迷っています
  • 相手から「離婚したいと」言われたらどうすればいいですか?
  • 妊娠中に離婚する場合に気をつけることはありますか?
  • 出産前後に活用できる制度はありますか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

妊娠中の離婚はあまりおすすめできません。理由はのちほど詳しく述べますが、一言でいえば大変、後悔してしまう可能性があるからです。ただ、事情によってはどうしても妊娠中に離婚しなければならない方もおられると思います。

そこで、今回は、妊娠中に離婚を思いとどまった方がいい理由や妊娠中の離婚で特に気をつけなければいけないこと、出産前後をうまく乗り切るための公的支援などについて詳しく解説したいと思います。また、妊娠中相手から離婚を切り出される可能性もありますので、そうした場合にどのように対処したらいいのかについてもあわせて解説したいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
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妊娠中の離婚を思いとどまった方がいい理由

妊娠中に離婚の二文字が頭をよぎっても、次の理由から、離婚に進む前に相手との関係を修復できないか、あるいは今すぐ修復は難しいにしても今の関係を続けることができないか一度立ち止まって考えてみる必要があります。

離婚準備が大変だから

まず、妊娠中の離婚準備がとても大変だからです。

離婚すると一言でいっても、ただ単に離婚届にサインして役所に提出すればいいわけではありません。離婚するにはあらかじめお金の準備をしたり、離婚後の住まいを探したりと、やるべきことがたくさんあります。ただでさえ大変な準備を、身体が不自由な妊娠中に行うことはとても大変なことです。

お金に困ってしまうから

次に、出産前後でお金に困ってしまうからです。

仕事をしていても出産前後は一時的に収入が落ちます(※)。貯蓄が十分にある場合は別ですが、出産前後は出費がかさむ時期ですから、相手の収入は何かと頼りになります。収入が安定していないからといってすぐに就職、転職することは難しく、お金の準備が不十分なまま離婚するとお金に困ってしまう可能性があります。

※健康保険に加入している方は出産前42日間(6週間)、出産後56日間(8週間)の範囲内で出産手当金(=標準報酬日額相当額×2/3)を受け取ることができます。

ひとりで出産、子育てしなければならないから

次に、ひとりで出産、子育てしなければいけないからです。

出産に近づくにつれて、一人でできることが徐々に少なくなってきます。出産直後(産褥期)は、元の身体の状態に戻るために安静にしておかなければならず、周囲のサポートが必要となります。妊娠中に離婚したら、出産のとき、出産前後で辛いときに「パートナーがいてくれたら」と後悔するかもしれません。

妊娠中に「離婚したい」と言われたら?

では、あなたは離婚する気がないにもかかわらず、妊娠中に相手から「離婚したい」と言われた場合、どう対応すればいいのでしょうか?

離婚に応じる必要はない

まず、あなたに離婚に応じる気がないのであれば、応じる必要はありません。相手から離婚届にサインするよう求められても絶対にサインしてはいけません(離婚する気がなくても、離婚届にサインしてしまうと離婚が成立してしまう場合があります)。あなたに不倫などの有責性がない限り、合意しない以上離婚は成立しません。

最初はショックで落ち着いて対処できないかもしれませんが、気持ちが落ち着いた段階で、相手になぜ離婚を望んでいるのか聞いてみましょう。相手の話しだいで今後のことを考えても遅くはありません。

相手の不倫を疑って

次に、不倫を疑ってみましょう。特に、妊娠中は不倫されている可能性が高いですので注意が必要です。

妊娠中、女性は身体的な面でも、精神的な面でも大きく変化します。一方の男性は以前のままで、夫婦の間で親になる自覚と子どもをもつ責任感の感じ方に大きな差が出やすい傾向にあります。そして、妊娠以前にはなかった価値観や考え方の違いが妊娠をきっかけに顕在化し、喧嘩の絶えない日々が続いてしまいます。

また、妊娠中は自然とあなたや赤ちゃんのことに関心がいきがちです。そうすると、相手は徐々に寂しさを感じ、寂しさを埋め合わせるために不倫に走ってしまう可能性があります。妊娠中はセックスレスに陥りやすく、セックスやスキンシップの機会、夫婦の時間が減ったことも不倫の要因かもしれません。

もし、相手の言動などから不倫が疑われる場合は、できる範囲で、自分で証拠を集め、どうしても限界を感じたときははやめに探偵に相談することをおすすめします。

妊娠中に離婚するときの注意点

もし、妊娠中に離婚すると決めたとしても、妊娠中の離婚特有の注意点があります。以下、それぞれの項目別に詳しく解説していきます。なお、離婚のときに相手と話し合わなければならないこと、取り決めなければならないことについては以下の記事で詳しく解説しています。

親権

まず、妊娠中に離婚した場合、出産後の子どもの親権は母親がもちます(ただし、離婚後、300日以内に生まれた子どもについては、話し合いで父親に親権をもたせることも可能です)。親権をめぐって争いとなる場合は審判(裁判所の手続き)で決めることになりますが、乳幼児の親権については母親がもつことが多く、父親が親権をもつことは難しいでしょう。

子どもの苗字・戸籍

次に、妊娠中に離婚した場合に子どもの苗字・戸籍がどうなるかは、離婚後に子どもが生まれたタイミングによって異なります。

離婚後300日以内に生まれた子ども

まず、離婚後300日以内に生まれた子どもは婚姻中に妊娠したものと推定され、さらに、婚姻中に妊娠した子どもは元夫の子ども、つまり、あなた(母親)と元夫との間の子ども(嫡出子)と推定されます。これを嫡出推定といいます。

そして、出生前に親が離婚したときの嫡出子(離婚後に生まれた子ども)の苗字は離婚時の親の苗字を名乗ることになっているため、たとえば、婚姻時に元夫の苗字を名乗ることを選択している場合、離婚後に生まれた子どもの苗字は元夫の苗字を名乗ることになります。

そして、子どもの戸籍が母親の戸籍に入るのか、父親の戸籍に入るのかは名乗っている苗字により決まります。つまり、子どもが元夫の苗字を名乗る場合、子どもの戸籍は元夫の戸籍に入るのが原則となります(※)。

※出生届の「父母の氏名」の「父」の欄、「本籍」の「筆頭者の氏名」の欄には元夫の氏名を書かなければ役所に受理されません。ただ、事情によっては元夫の氏名を書きたくなく、あえて役所に出生届を出さないという方もおられます。もっとも、この場合、子どもは無戸籍となってしまいます。これがいわゆる「300日問題」です。

離婚後300日を超えて生まれた子ども

次に、離婚後300日を超えて生まれた子どもには嫡出推定が及ばず、あなたと元夫との間に生まれた子どもとは推定されません。この場合の子どもは婚姻中の男女の間に生まれた子どもではないことから、嫡出子ではなく非嫡出子となります。

非嫡出子は母親の苗字を名乗ることになってます。また、先ほど述べたように、子どもが入る戸籍は親の苗字を基準に決められますので、非嫡出子の戸籍は母親の戸籍に入ります

養育費

離婚後に養育費を請求できるかどうかも、離婚後に子どもが生まれたタイミングによって異なります。なお、離婚後再婚し、子どもと再婚相手が養子縁組した場合は、再婚相手が子どもに対して第一次的な扶養義務を負うと考えられています。

離婚後300日以内に生まれた子ども

まず、離婚後300日以内に生まれた子どもには嫡出推定が及び、元夫と子どもとの間に親子関係が生じており、元夫は子どもに対して扶養義務を負っています。したがって、嫡出否認されない限り、元夫に対し養育費を請求することができます

離婚後300日を超えて生まれた子ども

一方、離婚後300日を超えて生まれた子どもには嫡出推定が及ばず、元夫は子どもに対して扶養義務を負いません。したがって、元夫が養育費を払うことに合意した、認知の手続きを経たという場合を除き、元夫に対し養育費を請求することができません

面会交流

面会交流は子どもと離れて暮らす親(父親が離れて暮らす場合は、嫡出推定が及ぶ子どもの親)が子どもと会ったり、手紙やメールなどを取り交わすなどして離婚後交流を図ることです。

相手が子どもとの面会交流を望んでいる場合は、子どもに対して高い関心を示していることでもあります。もし、離婚後養育費を請求するのであれば、養育費の未払いを防止する意味でも、できる限り面会交流を実施する方向で話を進めていきましょう。

もっとも、面会交流を実施するにしても、頻度や日時・場所、子どもの引き受け渡し方法など、いろいろと検討しなければならないことがあります。

慰謝料

慰謝料は、単に「妊娠中に離婚する」、「価値観・考え方が合わない」という理由だけで請求することはできません。

ただし、離婚に至ったことについて相手に有責性が認められる場合には慰謝料を請求することができます。特に、先ほど述べたとおり、妊娠中は不倫されている可能性がありますし、不倫(不貞)は立派な慰謝料の請求原因となります。妊娠中の不倫は慰謝料の増額要因にもなります。

不倫以外にも悪意の遺棄やDVなどの事情が認められる場合には、慰謝料請求に備えて可能な範囲で証拠を集めておくことをおすすめします。

出産前後の公的支援

出産前後はお金がかかりますし、精神面、肉体面でも大変です。ここでは出産前後に用意されている主な公的支援制度をご紹介します。すでに知っているものもあるかもしれませんが、あらためてここでご確認いただければと思います。

出産前後

出産前後の主な公的支援は次のとおりです。

相談・生活支援

妊婦、母子向けの公的な相談機関が設けられています。一人で悩みを抱えず、はやめに相談しましょう。

  • 各自治体の保健福祉センター
  • 各自治体の母子健康包括支援センター
  • お住いの役所の母子保健係(課)
  • 妊娠SOS○○○○(「○○○○」には都道府県名を入力)

産前産後休業

産前産後休業(産休)は労働基準法に定められた休暇制度で、出産予定日前42日から、出産後56日までの間に取得できます。

●対象となる人
すべての労働者

●取得できる期間
出産予定日前(産前)42日から出産後(産後)56日まで

●取得できる日数
・産前:希望する日数
・産後:原則56日(ただし、医師が認めた場合に限り、6週目から働くことができます)

●申請方法
産前取得を希望する場合は出産予定日がわかった時点で会社の上司、担当者に申し出ておきましょう。産後は強制取得のため、申請は不要です。

出産手当金

出産手当金は一定期間内に出産のために会社を休んだ場合に受け取ることができます

●対象となる人
健康保険に加入している人
※パート、アルバイトでも健康保険に加入していれば対象です
※国民健康保険(国保)のみに加入している人は対象外です

●支給条件
・妊娠4か月以上の出産であること
※「出産」には流産、死産、人工妊娠中絶も含まれます
・出産予定日前(産前)42日から出産後(産後)56日までの間(産前産後休暇の期間)、会社から給料が支払われないこと
※産前休暇をとるかとらないかは自由ですが、産後休暇は必ずとらなければいけません。ただし、医師が認めた場合に限り、産後6週目から働くことができます。

●支給額
標準報酬日額相当額×2/3×休業日数
※標準報酬日額相当額は「支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額÷30」で計算します
※「休業日数」の上限は産前42日+産後56日の合計96日ですが、出産が予定より遅れた場合はその日数分も加算されます
※会社から給料が支払われていても、給料の額が支給額を下回る場合は差額分が支給されます

●申請のタイミング・期間
産後57日目から2年以内
※出産手当金を受け取るには産後57日目から1か月~2か月程度かかります

●申請方法
【STEP1】「出産手当金支給申請書」を入手
【STEP2】医療機関で申請書の必要事項を書いてもらう
【STEP3】会社の担当者に申請書等を提出
【STEP4】指定の口座に出産手当金が振り込まれる
※会社が申請を終えてから1か月~2か月後が目安

出産前

出産前の主な公的支援は「妊婦健診の助成」です。こちらはすでに助成を受けている方も多いと思います。

●対象となる人
各自治体に住民登録している妊婦の方

●助成内容
妊婦健診時の助成券(14回分)の配布
※助成券を使うことで健診費用が実質無料となる場合も

出産後

出産後の公的支援は次のとおりです。

出産育児一時金

出産一時金は子どもを出産したときに受け取ることができます

●対象となる人
・健康保険に加入している人
・健康保険の被扶養者の人
・国保に加入している人

●支給額
・健康保険:子ども一人につき42万円
・国  保:子ども一人につき50万円
※一時金は出産費用(平均50万円)に充てられますので、全額を受け取れるわけではありません。「一時金>出産費用」の場合は差額分を受け取ることができますが、「一時金<出産費用」の場合は差額分を医療機関へ支払う必要があります。

●受け取り方法
医療機関に申請書等を提出します。その際、どの方式で受け取るか決める必要があります。医療機関によって受け取り方を指定されることがあります。
・事後払い方式:出産費用を全額自己負担し、あとで一時金を受け取る
・直接払い方式:社会保険機関が直接、医療機関へ一時金を支払う
・受取代理方式:医療機関が加入者から委任を受けて一時金を受け取る

育児休業休暇

育児休業休暇(育児休業)は育児・介護休業法に定められた休暇制度で、原則として1歳までの子どもを育児するために取得することができます。

なお、育児休業に似た休暇として「育児休暇」があります。育児休暇は子どもが1歳以降(就学前)でも取得できますが、そもそも会社の就業規則に定められていないと取得できません。また、育児休業ほど休暇を取得できず、休暇を取得したからといってあとで紹介する給付金を受け取ることはできません。

●取得条件
・休業開始予定日の1か月前までに会社に申請すること
・子どもが1歳6か月に達するまでに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと
※条件を満たせば、労働期間の定めのない無期雇用、定めのある有期雇用にかかわらず取得できます。日雇労働者は取得できません。

●取得できる期間
・産後57日目から子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで
※産後56日目までは産後休業(強制)を取得できます
※子どもが1歳(1歳6か月)の時点で保育所に入所できないなどの事由がある場合は子どもが1歳6か月(2歳)の誕生日を迎える前日まで期間を延長できます。

●取得できる日数
上記の期間のうち希望する日数(ただし、原則取得は1回)

育児休業給付金

育児休業給付金は育児休業を取得した人のための給付金です。

●対象となる人
健康保険に加入している人

●支給条件
・育児休業開始前2年間のうち、1か月に11日働いた月が12か月以上あること
・職場復帰を前提とした育児休業を取得していること
・育児休業期間中1か月ごとに、休業開始前の1か月あたりの給料の8割以上の給料を受け取っていないこと
・就業している日数が支給単位期間ごとに10日以下であること

●支給額
・育児休業開始から6か月以内
→育児休業開始時賃金日額×育児休業日数×67%
・育児休業開始から6か月以降
→育児休業開始時賃金日額×育児休業日数×50%
※育児休業給付金には所得税、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)はかかりません。

●申請方法
会社に育児休業を申請する際に同時に申請しましょう

その他の公的支援

その他、お金、就職・転職、子育てに関する公的支援も用意されています。仮に、妊娠中に離婚(別居)するときは、どんなお金を受け取ることができるのか確認しておきましょう。

お金

離婚後の資金計画を立てるときは、児童手当などの公的なお金は貯蓄に回し、給与や給与の代わりとなるお金(育児休業給付金など)で生活費をまかなえるか計算してみましょう。

・児童手当
・児童扶養手当
・児童育成手当
・ひとり親家庭医療費助成
・ひとり親家庭住宅助成
・住宅支援資金貸付
・母子父子寡婦福祉資金 など

就職・転職

離婚後の収入面に不安がある場合は就職・転職活動が必要です。

・母子家庭等就業・自立支援センター事業
・自立支援教育訓練給付金
・高等職業訓練給付金、終了支援給付金 など

子育て

就職、転職する場合はあわせて子どもの預け先も考えておく必要があります。

・実家
・一時保育(一時預かり)
・ファミリーサポートセンター
・ベビーシッター(ベビー&キッズシッター)
・保育ママ
・ショートステイ
・トワイライトステイ など