• 養育費の時効は何年ですか?
  • 時効を延長、中断する方法はありますか?
  • 時効が完成したら、養育費は請求できませんか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

離婚した後に養育費を請求する場合に注意しなければいけないのが時効です。場合によっては時効にかかり、時効の期間が経過すると養育費を請求できなくなるおそれがあります。そこで、今回は、養育費の時効の期間や起算点、時効を延長・中断する方法などについて詳しく解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
離婚・夫婦問題のみを取り扱う行政書士です。夫婦トラブルの相談(カウンセリング)、離婚・不倫関係の各種書面の作成などに対応しています。自身も2児の父親として子育て真っ最中です。「依頼してよかった」と思っていただけるよう、誠心誠意、最後まで責任をもって対応いたします。
プロフィールはこちら

養育費の時効は何年?

時効とは、ある一定期間の経過をもって権利を取得できたり、反対に権利が消滅したりする法制度です。権利を取得できる時効を取得時効、権利が消滅する時効を消滅時効といいます。

このうち養育費の「時効」とは「消滅時効」を指し、ある一定期間が経過すると時効が完成し、相手に養育費を請求する権利が消滅し、養育費を請求することができなくなってしまう可能性があります。

では、どのくらいの期間が経過すると時効が完成してしまうのでしょうか?この点に関しては協議離婚で離婚したか、協議離婚以外の方法で離婚したかによって異なりますので、以下、分けて解説したいと思います。

協議離婚の場合

まず、協議離婚のときに養育費の取り決めをしていた場合は「5年」です。

口約束していたとき、離婚協議書や公正証書を作って取り決めをしていたとき、いずれを問わず時効は5年で完成します。

協議離婚以外の場合

一方、協議離婚以外の方法で離婚したときに養育費の取り決めをしていた場合は「10年」です。協議離婚以外の方法とは、調停離婚、審判離婚、裁判離婚(和解、認諾、判決)離婚すべてを含みます。

養育費の時効の起算点

養育費の時効で期間のほか重要なのが、いつから期間がはじまるのか、すなわち時効の起算点がいつかということです。この点、法律では「権利を行使することができることを知った時」から時効の期間が進行するとしています。

養育費を分割で受け取る取り決めをしている場合は「毎月の請求期限が到来したとき」が「権利を行使することができることを知った時」にあたります。

たとえば、協議離婚のときに離婚協議書を作り、離婚協議書に次の条項を盛り込んでいたとします。

甲は、乙に対し、丙の養育費として、令和5年4月から丙が20歳に達する日の属する月まで、1か月金3万円を、毎月末日までに、乙の指定する金融機関の口座に振り込んで支払う。振込手数料は、甲の負担とする。

仮に今が「令和5年5月20日」だったとすると、請求期限が到来している養育費は「令和5年4月末日(30日)期限の養育費」となります。したがって、この分の養育費が未払いの場合は、令和5年4月30日から時効の期間(5年)が進行し、令和10年4月30日の午前0時をもって時効が完成することになります。

時効にかかるのは未払分の養育費

一方で、上の例でいまだ請求期限が到来していない養育費(たとえば、令和5年5月末日期限の養育費など)は時効にかかりません(時効の期間は進行しません)。請求期限が到来していない養育費は「権利を行使することができる養育費」とはいえないからです。

とはいえ、請求期限が到来した養育費を放置したまま10年を経過すると養育費を請求する権利そのものが時効によって消滅してしまい、まだ請求期限が到来していない養育費についても請求することができなくなってしまう可能性があります。

このことは、協議離婚で養育費の取り決めをした場合も、協議離婚以外で養育費の取り決めをした場合も同じです。請求期限が到来した養育費についてははやめに請求しておくことが大切です。

未払い分の養育費を請求する方法

請求期限が到来した未払い分の養育費を請求する方法としては「口頭(電話を含む)」、「書面」があります。相手が支払いに応じそうな場合は口頭で請求してもいいと思いますが、応じそうにない場合は書面で請求することも考えられます。

なお、のちほど解説しますが、書面を内容証明郵便(「催告」)で送れば時効期間を延長することができますし、相手が養育費の支払義務があることを認める趣旨の回答(「債務の承認」)をすれば時効期間の進行をリセットすることができます。

養育費の時効を延長、中断する方法

時効完成が間近に迫っているときの対処法としては、

  • 時効の期間を一定期間延長する
  • 時効の期間の進行をリセットする

のいずれかの方法があります。

前者の方法を時効の完成猶予(かつては時効の「停止」と言われていました)、後者の方法を時効の更新(かつては時効の「中断」と言われていました)といいます。

時効の完成猶予

時効を完成猶予する主な方法としては「①催告」、「②協議を行う旨の合意」、「③強制執行」、「④裁判上の請求」があります。

 具体的方法(例)効果
相手の住所宛に養育費の請求書面を内容証明で送る相手が請求書面を受け取った日から6か月間は時効が完成しない
未払い分の養育費について話し合う( 協議する)旨の合意書面を取り交わす次のいずれかの早い時まで時効が完成しない ・合意があった時から1年を経過した時 ・合意において当事者が協議を行う期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時 ・相手から協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時
相手の給与を差し押さえるため、申立書等を裁判所に提出する手続きが終わるまで時効は完成しない
養育費を請求する旨の訴状等を裁判所に提出する(裁判を起こす)裁判が終わるまで時効は完成しない

時効の更新

次に、時効を更新する主な方法としては「①債務の承認」、「②強制執行」、「③裁判上の請求」があります。

①の債務の承認とは、相手が養育費の支払義務があることを認めることをいいます。あなたの請求に対し、相手が「ちゃんと払うから少し待って。」などと口頭で回答した場合や、養育費の一部を払った場合も債務を承認したことになります。

ただし、あとで言った・言わないのトラブルになることを避けるには書面を作成し、相手が債務を承認した事実を証拠(たとえば、LINE・メールなど)として残しておいた方が安心です。

②の場合は差押えの手続きが終わった後、③の場合は判決が確定した後に時効期間がリセットされます。

援用とは?時効が完成すると養育費は請求できない?

相手に対する養育費を請求する権利は時効の期間が経過(時効が完成)した後、当然に消滅するのではなく、相手があなたに対して時効の完成を主張する手続きをとってはじめて権利が消滅することになっています。

この時効の完成によって利益を受ける相手が、時効の完成によって不利益を受けるあなたに対して時効の完成を主張することを時効の「援用」といいます。時効の期間が経過したとしても相手が時効を援用しない限りは、養育費を請求することができます。

※時効完成後の債務の承認
相手が時効が完成したことを知らずに債務を承認したものの、あとで時効が完成したことを知ったため、時効を援用して養育費の支払義務を免れることはできるのでしょうか?この点に関し、判例(最高裁判所昭和41年4月20日)は、(養育費とは別の事案で)「時効を援用することは許されない」 としています。

過去の養育費は請求できる?

養育費の時効に関連してよく問題になるのが、過去の養育費を請求できるか?ということです。

この点、離婚のときに離婚協議書などを作って養育費の取り決めをしている場合は時効が完成し、援用されない限り、請求することは可能です。

一方、取り決めをしていない場合は、相手が養育費を払うことに合意する場合は請求できますが、合意しない場合は調停等で請求することは難しいと考えた方がよいでしょう。

もし、離婚のときに養育費の取り決めをしていなかったものの、離婚した後に請求したくなったときは、はやめに相手に請求した方がよいでしょう。

まとめ

今回のまとめです。

  • 養育費の時効期間は協議離婚で取り決めをしているときは「5年」、協議離婚以外で取り決めをしているときは「10年」
  • 時効期間の起算点は養育費の請求期限日の翌日
  • 時効にかかるのは請求期限が到来している未払い分の養育費
  • 請求期限が到来してない養育費は時効にかからないものの、請求せずに10年間放置していると養育費の請求権限そのものが消滅する可能性がある
  • 時効の完成を先送りすることを時効の完成猶予、時効期間をリセットする方法を時効の更新という
  • 過去の養育費を請求できるかは、離婚のときに養育費の取り決めをしているかしていないかで異なる