• (離婚)公正証書の作成を代理人に任せることはできますか?
  • 代理人に任せるメリット・デメリットは何ですか?
  • 代理人は誰に頼めばいいですか?
  • 任せる場合の手続きの流れはどうなりますか?

この記事では上記のような疑問、悩みにお応えします。

公正証書への調印日(離婚公正証書に署名・押印する日)には、夫婦それぞれが公証役場に行き調印するのが原則です。ご夫婦それぞれが「離婚」という人生の中でも重要な選択をするときに、離婚の意思と合意した離婚条件に誤りがないことを、あらためて夫婦自ら確認した上で公正証書に調印する必要があるからです。

一方で、相手と顔を合わせたくない、公証役場に行く時間がない、公証役場が遠方で行けない、などの理由から「代理人に手続きを任せたい」というご要望が多いのも事実です。そこで、今回は、公正証書の作成を代理人に任せることはできるのか?任せるメリット・デメリットは何か?任せる場合はどんな手続きが必要か?などについて詳しく解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
離婚・夫婦問題のみを取り扱う行政書士です。夫婦トラブルの相談(カウンセリング)、離婚・不倫関係の各種書面の作成などに対応しています。自身も2児の父親として子育て真っ最中です。「依頼してよかった」と思っていただけるよう、誠心誠意、最後まで責任をもって対応いたします。
プロフィールはこちら

公正証書の手続きを代理人に任せることはできる?

公正証書の手続きを代理人に任せることができるかどうかは公証人の判断しだいです。公証人が代理人による手続きを認める場合は可能ですし、認めない場合はご夫婦で手続きを行う必要があります(※)。

※公証役場のHPで代理人による手続きの案内をしている場合は代理人による手続きを認めてくれる可能性が高いです。これから手続きしようとする公証役場のHPで代理人による手続きを案内されているかどうか一度確認してみましょう。

公証人が代理人による手続きを認めない理由

では、公証人が代理人による手続きを認めないのはどうしてなのでしょうか?

離婚が身分行為だから

まず、離婚が身分行為だからというのが大きな理由です。

身分行為とは、離婚をはじめ、婚姻、養子縁組などのように、法律上の身分関係を取得・変動させる行為のことをいいます。この身分行為を行うにあたっては、その行為を行う本人の意思が最も重要視されなければなりません。この点、代理人による手続きでは本人の意思(離婚では離婚意思があるのかどうかなど)が確認できないため、代理人による手続きに消極的となってしまうのです。

偽造の可能性も否定できないから

次に、公正証書を偽造される可能性も否定できないことも理由の一つです。

代理人による手続きをするには、本人が委任状にサインして実印を押し、その印鑑登録証明書を代理人に渡す必要があります。ところが、この手続きを本人の知らないところで、相手が勝手にしてしまう可能性もないとはいえません。公証人は必要な書類さえそろっていれば、本人の代理意思を確かめることはしませんから、公正証書が偽造されてしまう可能性があるのです。

代理人に任せるメリット・デメリット

公正証書の手続きを代理人に任せるメリットは調印日に公証役場に行かずに済み、相手と顔を合わせる必要がないことです。公正証書の代理は

  • 夫婦の一方が代理人に任せる
  • 夫婦の双方が代理を任せる

の2パターンがありますが、いずれの場合でも顔を合わせることなく公正証書を完成させることができます。

一方、デメリットは、公正証書に対する関心が低くなりがちで、内容や重要性をよく理解しないまま離婚を成立させてしまう可能性があることです。①の場合は代理を任せる側、②の場合は夫婦双方にその傾向がみられ、離婚後にトラブルとなるケースも散見されます。

また、夫婦で調印すれば、調印日に公正証書がそれぞれに交付送達され、送達証明書(※)を受け取ることができます。一方、代理人による手続きの場合は、代理を任せた方が所在不明等になった場合に送達証明書を受け取ることができないおそれがあります

※送達証明書
公証役場から公正証書が送達されたことを証明する書面。相手の給与などの財産を差し押さえる手続きをとる(強制執行の)際に必要となる書類です。公正証書の手続きを代理で行ったときは、特別送達によって公正証書を代理を任せた方に送る必要がありますが、所在不明等になった場合は送達することができない→送達証明書を発行してもらえない、ということになります。

代理人は誰に頼む?

公正証書の手続きを代理人に任せるにしても、次に思い浮かぶ疑問が「誰に代理人を任せた方がいいのか?」ということではないでしょうか?ただ、この点に関しては、専門家に依頼することをおすすめします。公正証書は夫婦の将来の権利義務を定める重要な書面ですし、手続きを進めていく上で専門的な知識が必要となるからです。

以下では、公正証書の代理人の依頼先として多い行政書士、弁護士に依頼するメリット・デメリットについて解説します。

行政書士

行政書士を代理人に指定するメリットは、公正証書の手続きを代行してくれることのほか、公正証書の原案(離婚協議書)も作成してくれることです。弁護士と比較して、費用が安い点もメリットといえるのではないでしょうか。

一方、デメリットは、弁護士と異なり、依頼者の代わりに相手と話し合うことができないことです。相手との話し合いが難しい場合は弁護士に依頼するか、調停を申し立てることを検討する必要があります。

行政書士を代理人に指定するのは、夫婦で話し合いができ、離婚と養育費などの離婚条件についてある程度話をまとめることができる場合といえます。

弁護士

弁護士に代理人を指定するメリットは、相手との話し合いから公正証書の手続きの代行まで、すべてを任せることができることです。相手と直接話し合う必要がないという点は、精神的にかなりの負担軽減になるはずです。

一方、デメリットは、相手との話し合いまで任せた場合は費用が高額となることです。また、弁護士に依頼したからといって、必ずしも満足のいく結果をえられるとは限りません。

弁護士を代理人に指定すべき場合とは、相手と直接話し合うことができない場合や話がまとまらない場合、裁判など難しい手続きを進める必要がある場合といえます。

関連記事

自己契約、双方代理はできない

公正証書の手続きを代理人に任せることができる場合でも自己契約や双方代理はできないことに注意が必要です

自己契約とは、一方当事者が相手の代理人となることです。たとえば、夫が妻の代理人となって公正証書の手続きをすることです。この場合、夫にとって有利、妻にとって不利な公正証書ができあがる可能性があるからです。

双方代理とは、一人の代理人が双方の代理人となることです。たとえば、夫の代理人が妻からも依頼を受けて代理人になることはできません。夫と妻は利害が対立するため、公平な内容の公正証書が完成しないおそれがあるからです。

公正証書を代理で作成する場合の流れ

ここでは、行政書士を代理人に指定した場合の流れをみていきましょう。

公正証書の原案作成まで

まず、公正証書を作成するまでの一般的な流れは以下のとおりです。

  • 離婚の準備をする
  • 話し合いをする
  • 原案を完成させる
  • 必要書類を準備する
  • 公証役場に作成を依頼する
  • 公証人が公正証書の原案を作成する
  • 公証役場で公正証書に調印(サイン)する

行政書士を代理人に指定する場合でも①、②は夫婦で行っていただく必要があります。③の原案は行政書士が作成します。ご準備いただきたい必要書類も案内します(➃)。

原案を確認いただき修正等なければ、行政書士が公証役場に公正証書の作成を依頼します(⑤)。公証人が公正証書の原案を作成したら行政書士に原案を送ってきますので、行政書士から依頼者に原案をお送りします(⑥)。

原案作成から調印まで

公正証書の原案を確認いただき修正等がなければ、行政書士が委任状の作成にとりかかります。委任状は公正証書用と年金分割合意書用の2種類があります。公正証書用の委任状には、委任状の書式に公正証書の原案を添付します。行政書士が委任状を作成したら委任者宛に委任状を送りますので、委任者において委任状を確認し、委任状に署名・押印していただきます。

夫婦の一方が代理人を指定する場合は、代理人を任せない方が、調印日に委任状などの書類を持ってきて、行政書士と一緒に公正証書に調印します(⑦)。夫婦の双方が代理人を指定する場合は、委任状などを行政書士にご返送いただき、行政書士がそれぞれの委任状などをもって公証役場で調印します(⑦)。

まとめ

  • 公証人が代理を認める場合は代理人に依頼することができる
  • 代理人への依頼にはメリットのほかデメリットもある
  • 代理人に依頼するときは専門家に依頼すべき