• 借金は財産分与の対象になりますか?
  • なる場合はどのように財産分与したらいいですか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

財産分与と聞くと、多くの方が預貯金などのプラスの財産を分け合うこととイメージしがちです。しかし、夫婦生活ではプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産も発生します。では、財産分与するにあたり、このマイナスの財産はどう処理すればいいのでしょうか?

今回は、そもそも借金が財産分与の対象になるのか、なるとしてどんな借金が財産分与の対象となり、どんな借金が財産分与の対象とはならないのか、対象となる場合はどう処理すればいいのか、詳しく解説していきたいと思います。

この記事を書いた人

行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
行政書士・夫婦カウンセラー:小吹 淳
離婚・夫婦問題のみを取り扱う行政書士です。夫婦トラブルの相談(カウンセリング)、離婚・不倫関係の各種書面の作成などに対応しています。自身も2児の父親として子育て真っ最中です。「依頼してよかった」と思っていただけるよう、誠心誠意、最後まで責任をもって対応いたします。
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借金は財産分与の対象になる?

まず、借金が財産分与の対象となるかどうかですが、借金の種類・性質によっては財産分与の対象になります。財産分与とは、婚姻時から別居(または離婚時)までに「夫婦で築いた財産」を離婚のときに「清算」するものですから、「夫婦で築いた財産」にはプラスの財産のみならずマイナスの財産も含まれます。

財産分与の対象となる借金

では、具体的にどんな借金が財産分与の対象となるのかみていきましょう。

日常家事債務

まず、日常家事債務です。

日常家事債務とは、夫婦の共同生活で生じる通常の債務をいいます。

たとえば、

各種(家賃、水道光熱費、通信費、保険料など)未払金
・クレジットカード払いの未払金
・医療費の未払金

などが日常家事債務にあたります。一方、

・多額の借金
・高額商品(太陽温水器、高級布団、学習用教材など)の未払金

などは日常家事債務にあたらないとされています。

日常家事債務にあたる場合は、夫婦は債権者(お金の支払い請求できる人)に対して連帯して返済する義務を負います。仮に、名義が夫婦の一方にあったとしても、他方も返済義務を負います。この返済義務は離婚した後も解消されません(ただし、夫婦の話し合いで一夫が返済義務を負うとすることは可能です)。

※株、FXによる損失
夫婦の共有財産(預貯金)の形成する目的で株やFXを行っていたと認められる場合には、株やFXによる損失もまた財産分与の対象となる可能性があります。

夫婦共同生活のために生じた債務

次に、夫婦共同生活のために生じた債務です。

夫婦共同生活のために生じた債務とは、日常家事債務とはいえないものの、婚姻期間中に夫婦共同生活のために生じたといえる債務をいいます。

たとえば、

衣食住費を補うための借金
・教育費を補うための教育ローン

などがこれにあたります。

資産の形成・維持のために生じた借金

次に、婚姻後の資産の形成・維持のために生じた借金です。

たとえば、

住宅ローン
・車のローン
・リフォームローン

などがこれにあたります。

借金の対価として得たプラスの財産(家・車など)が財産分与の対象となる以上は、借金も財産分与の対象に含める必要があるとの考えです。ローンの名義が夫婦の一方にあっても財産分与の対象となります(ただし、ローンの返済義務はローンの名義人が負うのが基本です)。

※自営業(個人事業主)での借金
自営業でも法人化した会社を営んでいる場合は、個人と会社とは別とみなされるため、会社名義の借金は財産分与の対象にはなりません。一方、法人化せずに個人で営んでいる場合は、夫婦の共同生活を維持する上で必要と認められる借金であれば財産分与の対象となります。

財産分与の対象とならない借金

財産分与の対象とならない借金とは、先の3つのいずれにも該当しない借金(特有財産)です。

たとえば、

婚姻前に夫婦の一方が作った借金、奨学金
・(婚姻後でも)夫婦の一方の趣味、遊興費、ギャンブルなどで作った借金
・共有財産を形成する目的のない投資(株、FXなど)による損失

などは財産分与の対象にはなりません。

借金がある場合の財産分与の方法

財産分与の対象となる借金がある場合の(清算的)財産分与の方法は、預貯金などのプラスの財産から借金などのマイナスの財産をひき、残った金額を分与割合(通常2分の1)にしたがって分け合います。

分与取得額=(プラスの財産-マイナスの財産)×分与割合

たとえば、プラスの財産が1000万円、借金が500万円ある場合の分与取得額は、分与割合を2分の1とした場合、

250万円=(1000万円-500万円)×1/2

となります。

一方、プラスの財産が500万円、マイナスの財産が1000万円の場合、財産分与はしない(ー500万円を二人で250万円ずつ分け合うことはしない(※))とするのが実務上の扱いです。

※たとえば、夫名義の借金が1000万円だった場合、離婚後は借金の名義人である夫が1000万円を返済する義務を負います(妻は借金の名義人でないことから法的には返済義務を負いません)。もっとも、その借金が夫婦の資産形成に少しでも貢献できたのであれば、話し合いにより他の財産等により調整する(たとえば、夫の妻に対する慰謝料250万円の支払義務を免除するなど)のことは何ら妨げられるものではありません。

住宅ローンがある場合の財産分与の方法

持ち家がある場合、借金の中でも大きなウェイトを占めるのが住宅ローンです。

住宅ローンがある場合は、まずはアンダーローンかオーバーローンかの見極めが大切です。アンダーローンの家は財産分与の対象としますが、オーバーローンの家は財産分与の対象としないことが基本だからです。

なお、アンダーローンの場合もオーバーローンの場合も家を売らない場合は住宅ローンが残ります(※)。離婚後は誰が払っていくのか、家の名義をどうするのかなど、離婚前にきちんと話し合って取り決めておくことが大切です。

※ただし、任意売却の場合は家を売った後も住宅ローンが残ります。

借金の財産分与でよくあるQ&A

最後に、借金の財産分与でよくある疑問に回答します。

財産分与の対象となる夫名義の借金が200万円ありますが、財産分与するということは夫婦で借金を100万円ずつ分けるということですか?

いいえ違います。借金の名義が夫にあるということは、夫単独で借金の返済義務を負っているということになります。この返済義務は夫が債権者(お金を貸す人)対して負う義務です。一方、財産分与は夫婦間の問題であって、債権者は関与しません。

もともと債権者は夫の経済力を信用してお金を貸しています。財産分与という夫婦の都合で勝手に夫の返済義務が軽減され、他の知らない第三者が返済義務を負うとなると債権者にとって大きな損害となるため、借金の返済義務は引き続き夫が負うことになります。

マイナスの財産>プラスの財産の場合、財産分与でマイナスの財産を夫婦で分け合うということですか?

先ほど述べたとおり、マイナスの財産がプラスの財産を上回る債務超過の場合は財産分与はしません。また、借金の返済義務を負うのは借金の名義人で、超過分を夫婦で分け合うこともしません(たとえば、プラスの財産が300万円、借金が500万円の場合、200万円を夫婦で100万円ずつ分け合うことはしません)。

別居中に相手が借金していたことが判明しました。この借金は財産分与の対象となりますか?

基本的には財産分与の対象とはなりません。財産分与は夫婦で築いた財産を清算するものですが、別居後の借金(財産)は夫婦で築いた財産とはいえないからです。もっとも、婚姻費用の支払いのために借金したなど、夫婦生活のためにした借金と認められる場合に(借金の性質によって)は財産分与の対象となる可能性があります。