別居合意書の文例 | 作成の手順、書くべき内容は?【サンプル付き】

  • 別居合意書って何ですか?
  • 作った方がいいですか?
  • どういう手順で作ればいいですか?
  • どんな内容を盛り込むべきですか?

この記事ではこのような疑問、悩みにお応えします。

別居するとき相手と書面を取り交わしましょう、といってもいまいちピンとこない方も多いかもしれません。夫婦関係がこじれた場合、一刻もはやく別居したいと考える方は多いはずです。

しかし、一定の場合を除き、別居前にきちんと取り決めをしておかないと、別居後の生活に困り別居したことに後悔してしまうことにもなりかねません。別居合意書は、別居後の生活を安心して送るためのツールの一つです。

今回は、この別居合意書とは何か、作るメリットは何か、どういう手順で作ればよいのか、どんな内容を盛り込めばいいのかについて詳しく解説していきたいと思います。

別居合意書とは

別居合意書とは別居中の様々なルールをまとめた書面です。

別居合意書のほか、別居時合意書、別居契約書、婚姻費用分担に関する合意書(契約書)などと呼ばれることもありますが、いずれも内容は別居中のルールを盛り込んだものとなります。

別居合意書をおすすめする理由

後述する「別居合意書を作らない方がよいケース」を除き、別居合意書を作っておくことをおすすめします。理由は次のとおりです。

トラブルを防止できる

まず、言った・言わないのトラブルを防止できることです。

別居にあたっては様々なルールを取り決めておく必要がありますが、それを一から十まで正確に記憶しておくことは無理があります。口約束だけに終わらせると、別居後に、言った言わないのトラブルに発展してしまう可能性があります。

別居合意書に盛り込む事項の中には、婚姻費用など別居後の生活に直結するものもあります。別居後の生活を安心して送るためにも、別居合意書を作っておくことをおすすめします。

夫婦間で問題点を共有できる

次に、何がいけなかったのか、夫婦間で問題点を共有できることです。

少しでも修復の可能性を残して別居するときは、夫婦間で問題点を共有しておくことがとても重要です。しかし、何も話し合わないまま、書面を作らないまま別居すると、問題点を共有できず、修復につなげることが難しくなってしまいます。

後述するように、別居合意書に「別居の経緯」の条項を設けることで、夫婦で別居することになった経緯・理由を確認することができます。

別居合意書を作らない方がよいケース

一方で、別居合意書を作らない方がいいケースもあります。別居合意書を作らない方がいいケースとは、次のようなケースです。

離婚前提で別居する場合

まず、離婚前提で別居する場合です。

前述のとおり、別居合意書を作るのは、あなたの気持ちの中で離婚か修復かの迷いがある場合、修復の可能性が残されている場合です。

離婚前提で別居する場合は、離婚準備をして別居を切り出し、別居した後早急に離婚協議を進め、話がまとまったら離婚協議書や離婚公正性証を作るべきです。

DV、虐待を受けている場合

次に、DV、虐待を受けている場合です。

この場合は別居合意書を作ることよりも、ご自身やお子さんの身の安全を確保することが最優先です。暴力的な相手に話し合いや別居合意書の作成をもちかけても火に油を注ぐだけで、まったく効果がありません。

相手が別居に合意しない場合

次に、相手が別居に合意しない場合です。

有効な別居合意書を完成させるには、相手の協力(サインなど)が不可欠です。しかし、相手が別居に合意しない場合は相手の協力を得られず有効な別居合意書を作ることができません。

なお、DVなど緊急性の高い場合を除き、相手が別居に合意しないからといって相手に無断で別居することは極力避けた方が無難です。相手に無断で別居することは、相手の反感を買うばかりか、夫婦の同居義務や協力・扶助義務に反することでもあります。

相手の合意は得ないにしても、のちの離婚協議や調停などで不利にならないよう、置き手紙などの書面を残し、その状況を写メにとっておくなどの対策が必要です。

別居合意書(原案)を作るまでの手順

別居合意書を作るには、そもそも別居することが正しい選択肢なのか検討することからはじめる必要があります。

また、仮に別居を選択するとしても、いきなり相手に別居を切り出すのではなく、別居の準備を整えてから切り出すべきです。別居の準備の最終段階で別居合意書の作成にとりかかります。

別居合意書に書くべき項目・内容

それでは、ここからは、別居合意書に書くべき項目、内容について解説していきます。別居合意書に盛り込むことが多い項目は次のとおりです。

✔ 標題、導入
✔ 別居の合意
✔ 監護権者
✔ 別居の経緯
✔ 婚姻費用
✔ 面会交流

全体像

別居合意書

 

夫〇〇〇〇(以下「甲」という。)及び妻〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、夫婦間の別居開始にあたって、以下のとおり合意した。

第1条(別居の合意等)
1 甲及び乙は、当分の間、別居する。
2 甲及び乙は、前項別居期間において、夫婦生活の在り方を検討し、できるだけ早い時期に別居生活を解消できるよう努力する。

第2条(監護権者)
 甲及び乙は、離婚又は同居まで、当事者間の長男○○○○(令和○年○月○日生。以下「丙」という。)の監護権者を乙とする。

第3条(別居の経緯)
 甲及び乙は、別居を開始する理由が、〇〇〇〇であることを確認した。

第4条(婚姻費用の分担)
1 甲は、乙に対し、令和〇年〇月から離婚又は同居まで、婚姻費用の分担金として月額金〇万円を毎月〇〇日までに、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号:〇〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料は、甲の負担とする。
2 甲は、乙若しくは丙の病気又は丙の入学、進学等により乙が特別の出費を要したときは、乙の申出により、別途その支払について乙と協議するものとする。

第5条(面会交流)
 乙は、別居期間中、甲が丙と面会交流することを認める。その具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉を尊重し、その都度協議して定める。

第6条(別居中の共有財産の処分の禁止)
1 甲及び乙は、下記の財産が共有財産であることを確認する。
2 甲は、別居期間中、共有財産を乙の同意なく処分してはならない。

(略)

第7条(別居中の誓約事項)
 甲は、乙に対し、別居期間中、次の各項目を遵守することを誓約する。
⑴ 乙の悪口を言わない
⑵ 不貞をしない
⑶ 不倫・浮気を疑われる行為をしない
⑷ ギャンブルをしない
⑸ 過度に飲酒しない
⑹ 乙の承諾なく、借金を作らない
⑺ 住所、勤務先、連絡先を変更した際は、速やかに乙に伝える

第8条(離婚の協議等)
1 甲は、乙より離婚の申し出があったときは、妻の意思を尊重し、誠実にその協議に応じるものとする。
2 前項の協議において、甲は、乙が丙の親権者となることにつき異議を述べない。

以上

 本合意の成立を証するため、本書を2通を作成し、甲乙署名押印の上、各1通を保有する。

令和○年○月○日

(甲)

氏名                     ㊞

(乙)

氏名                     ㊞

標題、導入

標題・導入

夫〇〇〇〇(以下「甲」という。)及び妻〇〇〇〇(以下「乙」という。)は、夫婦間の別居開始にあたって、以下のとおり合意した。

標題は一目で別居時の合意書とわかるものにします。前述のとおり、別居合意書のほか「別居時合意書」、「別居契約書」などがあります。「甲」・「乙」は使わなくてもいいですが、使った方が、誰がどんな権利を有し、義務を負うのかを明確にすることができ便利です。

別居の合意

第1条(別居の合意等)

1 甲及び乙は、当分の間、別居する。
2 甲及び乙は、前項別居期間において、夫婦生活の在り方を検討し、できるだけ早い時期に別居生活を解消できるよう努力する。

具体的な別居期間を定めない場合は「当分の間」とします。夫婦関係の修復を目的として別居する場合は、2項のような条項を設けることで、夫婦関係の修復を期待し、再び同居することができるよう互いに努力すべきことを明示することができます。

監護権者

第2条(監護権者)

甲及び乙は、離婚又は同居まで、当事者間の長男○○○○(令和○年○月○日生。以下「丙」という。)の監護権者を乙とする。

監護権とは、子供と一緒に暮らし、子供の身の回りの世話をする権利義務のことで、監護権をもつ親を監護権者といいます。別居後に子供の連れ去りなどの不安がある場合は、このような条項を設けておくと一定の歯止めにはなります。

なお、離婚時に親権をめぐって争いとなった場合、監護状況に問題がない限りは、別居中の監護権者が親権者となるケースがほとんどです。

別居の経緯

第3条(別居の経緯)

甲及び乙は、別居を開始する理由が、〇〇〇〇であることを確認した。

前述のとおり、少しでも修復への望みをもって別居する場合は、なぜ別居することになったのか、別居の経緯・理由を書いておくとよいでしょう。不貞など相手の有責行為が原因で別居する場合は、ここでその内容を明記しておくことで、離婚の話し合いを有利に進めることができます。

婚姻費用の分担

第4条(婚姻費用の分担)

1 甲は、乙に対し、令和〇年〇月から離婚又は同居まで、婚姻費用の分担金として月額金〇万円を毎月〇〇日までに、乙名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金口座(口座番号:〇〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法により支払う。振込手数料は、甲の負担とする。
2 甲は、乙若しくは丙の病気又は丙の入学、進学等により乙が特別の出費を要したときは、乙の申出により、別途その支払について乙と協議するものとする。

別居合意書の条項の中で最も重要なのが「婚姻費用の分担」です。婚姻費用とは婚姻により生じる生活費のことで、別居中でも夫婦である以上は分担する義務を負います。未成年の子供がいる場合、養育費は婚姻費用に含まれます。

2項では、婚姻費用に含まれない特別な出費が生じた場合に、あらためてその支払いについて協議する旨を定めています。

面会交流

第5条(面会交流)

乙は、別居期間中、甲が丙と面会交流することを認める。その具体的な日時、場所、方法等は、子の福祉を尊重し、その都度協議して定める。

面会交流とは、子供と離れて暮らす非監護親が別居後(あるいは離婚後)に子供と会うなどして交流を図ることです。

非監護親が面会交流を希望する場合は、子供を虐待しているなどの特別な事情がない限り、面会交流を実施する方向で話を進めます。相手にきちんと婚姻費用を支払ってもらうためにも、面会交流についてはある程度柔軟に対応することをおすすめします。

別居中の共有財産の処分の禁止

第6条(別居中の共有財産の処分の禁止)

1 甲及び乙は、下記の財産が共有財産であることを確認する。
2 甲は、別居期間中、共有財産を乙の同意なく処分してはならない。

               記

(略)

共有財産とは「夫婦共有名義の財産」または「婚姻後に夫婦で築いたと認められる財産」です。別居後、万が一離婚することになった場合は、別居時点での共有財産が財産分与の対象となります。

そのため、別居時点でどんな共有財産があるのかを把握し、夫婦でその情報を共有しておくことが大切です。また、別居期間中、共有財産を処分されてしまっては意味がありませんから、同意なく処分しないことを求める条項も設けておきます。

別居中の誓約事項

第7条(別居中の誓約事項)

甲は、乙に対し、別居期間中、次の各項目を遵守することを誓約する。

⑴ 乙の悪口を言わない
⑵ 不貞をしない
⑶ 不倫・浮気を疑われる行為をしない
⑷ ギャンブルをしない
⑸ 過度に飲酒しない
⑹ 乙の承諾なく、借金を作らない
⑺ 住所、勤務先、連絡先を変更した際は、速やかに乙に伝える

ここでは別居期間中の遵守事項を書きます。

相手が自分の非を認め、別居期間中にそれを改善することを誓約する場合は、あなたが相手に改善してもらいたいと考えていることを書くとよいでしょう。

あなたは離婚の気持ちが大きく、相手は修復の気持ちが大きいときは、特に相手に改善を求めやすいタイミングです。漏れなく盛り込んでおきましょう。

違反した場合の制裁

第8条(離婚の協議等)

1 甲は、乙より離婚の申し出があったときは、妻の意思を尊重し、誠実にその協議に応じるものとする。
2 前項の協議において、甲は、乙が丙の親権者となることにつき異議を述べない。

最後に、第7条の誓約事項の遵守を実行的なものとするためにも、違反した場合の制裁に関する条項をもうけておきます。

制裁の内容は、違約金など、お金を払わせるもののほか、相手が修復を求めている場合は、上記のように離婚を申し出るとすることも考えられます。

ただし、協議離婚するには相手の同意が必要です。相手が離婚に反対したり、親権を主張してきた場合は、調停や裁判で決着をはかる必要があります。

別居合意書のサンプル

別居合意書のサンプルはこちらです。無料でダウンロードできますので、ご自分で別居合意書を作りたい方はご活用ください。

別居合意書(1/2)
別居合意書(2/2)

ただし、別居合意書に盛り込む内容は、夫婦のご事情によって大きく異なってきます。あくまでサンプルは参考程度にとどめ、ご夫婦それぞれのご事情にあった別居合意書を作成し、最終的には専門家のリーガルチェックを必ず受けるようにしてください。

別居合意書は公正証書にしよう

別居合意書には婚姻費用について盛り込むことが多いかと思いますが、婚姻費用などのお金の取り決めをした場合は公正証書を作っておくことをおすすめします

公正証書を作っておけば、万が一お金の未払いが生じたときに、裁判を経ずに相手の給与などの財産を差し押さえる手続きをとることが可能です。

また、通常、財産の差押えの手続きは、お金の未払いが生じた都度とる必要がありますが、婚姻費用や養育費については、一度未払いが生じたときは、未払いが生じていない将来分についても差押えの効力が継続することも大きなメリットです。

公正証書にはこうした強制力があることから、公正証書を作っておけば、結果的に相手が合意した通りにきちんと婚姻費用を払ってくれることが期待できます

別居合意書に関する注意点

最後に注意点ですが、別居合意書に書いた内容は、原則として、婚姻中はいつでも取り消すことができることに注意が必要です(民法第754条)。

(夫婦間の契約の取消権)
第754条
夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

別居の合意も契約の一種ですから、婚姻中はいつでも取り消すことができます。もっとも、婚姻関係が破綻している場合はこの規定は適用されないとした判例(最高裁昭和33年3月6日など)があります。

お互いが別居の合意をした後になって、「やっぱり取り消したい」という気持ちにならないよう、まずは十分に時間をかけて話し合い、お互いが納得する内容の合意書を作ることを心がけましょう。

まとめ

  • 別居合意書は、別居中のルールをまとめた書面
  • 一定の例外を除き、作っておくことをおすすめします
  • 別居合意書に婚姻費用の条項を盛り込んだ場合は公正証書を作りましょう
  • 婚姻中は、合意内容が取り消されることがあります
  • 取消しを請求されることがないよう、十分な話し合いが必要です

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投稿者プロフィール

小吹 淳
小吹 淳
離婚分野を中心に取り扱う行政書士です。 行政書士に登録する前は法律事務所に約4年、その前は官庁に約13年勤務していました。実務を通じて法律に携わってきた経験を基に、離婚に関する書面の作成をサポートさせていただきます。