離婚した後、親権をもつ親が親権者としてふさわしいのか疑問が残り、「親権を奪いたい、停止したい」と思うことがあると思います。そこで、今回は、親権者の親権を停止させる親権停止の要件や手続きの流れなどを詳しく解説します。
なお、親権をはく奪する親権喪失については別の記事で解説しています。そちらもあわせてご参照ください。
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親権停止とは
まず、親権停止とは、最長2年間、親権を行使することができない法制度のことです。
親権は、大きく、子どもの身の回りの世話をする権利義務などを含む身上監護権と子どもの財産を管理する権利義務などを含む財産管理権にわかれます。親権を停止されると、子どもの身の回りの世話をできなくなる、つまり、子どもと一緒に暮らすことができなくなります。
親権は子どものためにあるものです。したがって、その親権が子どものために行使されていないと認められるときは、一時的にその親から子どもを切り離して子どもを守ろうというのが親権停止の趣旨です。
親権喪失との違い
親権停止も親権喪失も親権の行使を制限する点で共通していますが、以下の表のとおり異なる法制度です。
親権停止 | 親権喪失 | |
制限期間 | 最長2年 | 永久 |
要件 | 緩やか | 厳しい |
その他 | 喪失の原因が2年以内に消滅する見込みがある場合は喪失しない |
以前は、親権を制限する制度として、親権喪失しか規定されていませんでした。しかし、親権喪失は永久的に親権をはく奪するという、親権者にとってとてもダメージの大きい制度です。そのため、要件が厳しく、親権喪失の申し立てもほとんど行われていないのが現状でした。そこで、親権喪失に代わる比較的緩やかな措置として親権停止という制度が設けられました。
親権停止の要件
それでは、いかなる場合に親権が停止されるのか(親権停止の要件)ですが、それは「父親または母親による親権の行使が困難または不適当であることにより子どもの利益を害するとき」です。
「親権の行使が困難」な場合とは、たとえば、親権者が薬物依存で子どもの世話ができない場合、犯罪を犯し刑務所に長期間服役しなければならない場合などをあげることができます。
次に、「親権の行使が不適当」な場合の典型が、子どもが虐待を受けている場合です。虐待には、親が子どもに暴力を振るう身体的虐待のほか、性的なことをする性的虐待、子どもに食事を与えない、必要な医療行為を受けさせないなどのネグレクト、子どもを脅すなどの心理的虐待があります。
親権停止になった事例
ここでは過去に親権停止になった事例を紹介します。
育児放棄で親権停止(宮崎家裁平成25年3月29日審判)
【事案の概要】
子ども(X)を出産後、母親(M)はXを病院に置き去りにして失踪(育児放棄)します。退院後、Xは祖母の妹の家に預けられ、曾祖母、祖母の兄、祖母の妹に育てられました。
【結果】
2年間の親権停止
(理由)
・MはXを監護養育しておらず、今後もXを監護養育していく意思が認められない。
・Mは、正当な理由もなく、Xに必要な医療行為を受けさせることに同意しない
虐待で親権停止(東京高裁令和元年6月28日決定)
【事案の概要】
養父と実母が子ども(X)に対し、殴る叩くなどの身体的虐待、食事を与えないなどのネグレクトを繰り返しており、Xは児童相談所に一時保護されました。
【結果】
2年間の親権停止
(理由)
・親権者による養育実績がほとんどない
・X自身が親権停止を望んでいる
医療ネグレクトで親権停止
①【事案の概要】(東京家裁平成28年6月29日)
心臓疾患を抱えていた生後4か月の女児に対する保全処分の事案。
【結果】
職務執行による親権停止
(理由)
・女児を見舞う回数が少なかった
・病院からの要求に対応しなかった
・医師との面談をキャンセルした
②【事案の概要】(東京家裁平成27年4月14日)
生命の危険があった子どもへの輸血に関し、宗教上の理由から輸血を拒否した保全処分の事案。
【結果】
職務執行による親権停止
(理由)
・輸血に同意しないことは子どもの生命に危険を生じさせる危険が高い
親権停止の手続き①【申立て】
親権者の親権を停止するには、家庭裁判所に対して親権停止の審判を申し立て、裁判所に「〇〇の親権を停止します」の審判(判断)を出してもらう必要があります。そこで、ここでは、家庭裁判所に対して行う申し立ての方法について解説したいと思います。
申立権者
家庭裁判所に対して親権停止の審判を申し立てできる人は以下の人です。誰でも申し立てできるわけではありません。
・子ども
・子どもの親族
・未成年後見人
・未成年後見監督人
・検察官
・児童相談所長
親権停止の審判は、親権をもたない親(子どもの親族)が申し立てることが多いと思いますが、親以外にも祖父母や叔父叔母(子どもの親族)、児童相談所長なども申立てすることができます。
申立先
申立てを行う裁判所は、子どもの住所地を管轄する家庭裁判所です。たとえば、東京都の特別区内に住所地のある子どもの親権停止の申立先は東京家庭裁判所というように、各裁判所には、取り扱うことができる事件(審判)の範囲が管轄という形で決められています。裁判所への申立ては、その管轄で決められた裁判所に行う必要があります。
必要書類
家庭裁判所への申し立ては申立書という書面で行う必要があります。また、申立書のほか、以下の書類も必要です。
・子どもと親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
・子どもとの関係がわかる資料
(申立権者が親族の場合)戸籍謄本
(申立権者が未成年後見人または未成年後見監督人の場合)登記事項証明書
(申立権者が児童相談所長の場合)在職証明書
・申立ての理由がわかる資料
→たとえば、子どもへの虐待の事実がわかる資料として、診断書、警察に相談した際に警察が記録した相談記録、虐待の事実を記録した日記・手帳など
費用
親権停止の審判を申し立てる際にかかる費用は申立て自体にかかる必要とそれ以外の費用があります。
〇申立て自体にかかる費用
・申立手数料(収入印紙代):子ども一人につき800円。収入印紙は申立書に貼り付けます。
・郵便切手代:裁判所により異なるため、申立てする前に裁判所に確認しましょう。
〇上記以外の費用
・弁護士費用:弁護士に依頼する場合は弁護士費用がかかります。
親権停止の手続き②【申立て以降】
親権停止の審判の申し立てをした後の流れは次のとおりです。
・保全処分の申し立て
↓
・審理
↓
・審判
保全処分の申し立て
保全処分とは、審判の結果を待っていては子どもの利益を害するときに、審判の結果を出す前に、暫定的に親権者の親権を停止するか、親権者の代わりとなる人(職務執行者)を決める裁判所の処分です。
たとえば、子どもが親権者から日常的に虐待を受けており、親権停止の審判を待っていては子どもの命が危ないなどという緊急性の高いケースで保全処分が出されます。
裁判所に保全処分を出してもらうには、親権停止の審判(本案)の申立てとは別に申立てをする必要があります。本案の申立てと同時に行うことが通常です。
審理
申立てを受け付けた裁判所は、申立書や提出された書類、申立人や相手方、子どもから聴いた話の内容などをもとに、親権停止の要件を満たすかどうか、満たすとしてどの程度の期間、親権を停止するのかを判断します。
なお、子どもへの聴取は家庭裁判所調査官という裁判官とは別の職員が担当します。また、15歳以上の子どもからは必ず話を聴くことになっています。
審判
審理や調査官による調査の結果、裁判所が親権停止の要件を満たすと判断したときは、親権者の親権を停止する旨の審判が出されます。一方、親権停止の要件を満たさないと判断されたときは申立てが却下されます。
上記の裁判所の判断は、審判の告知を受けた日から2週間で確定します。確定とは不服申立てができなくなった状態のことです。つまり、上記の判断に不服があり確定させたくない場合は、2週間以内に不服申立て(即時抗告)の手続きをとらなければなりません。
親権停止の審判が確定したら?
裁判所が親権停止の審判をし、その審判が確定したら次の効果が発生します。
親権を行使できない
まず、指定された期間、親権者は親権を行使することができなくなります。
すなわち、子どもと一緒に生活したり、子どもの財産を管理することができなくなります。なお、期間が経過したら親権は復活します。しかし、期間が経過する時点で、親権停止の原因が取り除かれていない場合は、再度親権停止の審判の申立てを行って親権停止を求めていくこともできます。
子どもの世話は未成年後見人が行う
離婚して父親または母親の一方が親権者となっていて、その親権者の親権が停止された場合、未成年後見が開始します。他方の親に自動的に親権が移るわけではありません。
未成年後見とは、未成年者に親権者がいない場合に、親権者に代わって未成年者の世話などをする人(未成年後見人)をつける制度です。親権停止の審判を受けた親は、家庭裁判所に対し、未成年後見人の選任の請求をしなければなりません。