令和6年5月17日に民法等の一部を改正する法律(以下「改正民法」といいます。)が成立しました。改正民法では、様々な規定が修正されたり、新たな規定が設けられたりしています。今回は、改正民法によって設けられた「法定養育費」の制度について詳しく解説します。
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法定養育費制度とは?
法定養育費制度とは、離婚のときに養育費について取り決めをしていなくても、子どもと一緒に生活する親が他方の親に対し、離婚の日から法律が定めるときまでに、毎月末日を期限として、一定額の養育費を請求することができる制度です。
法定養育費制度が導入された背景
法定養育費制度が導入されるようになったのは次の背景(理由)があるからです。
・離婚時の養育費の取り決め率が低調だった
・離婚当事者の話し合いで養育費の額まで決めることが難しかった
・調停、裁判で取り決めるにも時間や費用がかかっていた
・未払いとなったときの強制執行の手続きにも時間や費用がかかっていた
法定養育費制度はいつから?
法定養育費制度は令和8年5月23日までの政府が定めた日(改正民法の施行日)に始まります。したがって、施行日以降に離婚し、次の項目で解説する条件にあてはまる場合は法定養育費を請求できます。一方、施行日以前に離婚した場合は法定養育費を請求することはできません。
法定養育費を請求するための条件
法定養育費は離婚のときに養育費について取り決めができていないことが請求の条件です。
この条件さえあれば、話し合い(協議)、調停、裁判などの離婚方法や性格の不一致、不倫、DVなどの離婚理由に関係なく請求することができます。
法定養育費請求権の内容
法定養育費を請求できる人、請求できる相手、金額、始期・終期、請求日は次のとおりです。
請求できる人
法定養育費を請求できる人は、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うもの、とされています。要するに、離婚してから主に子どもの世話を行ってきた親です。監護者として指定されている、といった条件は不要です。
請求できる相手
法定養育費を請求できる相手は、請求できる人の他方の親、つまり、離婚してから主に子どもの世話を行っていない親です。
金額
金額については、「父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」とされているところ、2025年8月27日、法務省は子ども一人につき「月2万円」という案を発表しました。まだ確定した額ではなく、今後も変動する可能性があります。今後のニュース等に注視しておく必要があります。
始期・終期
法定養育費を請求できる始期は「離婚の日」からです。一方、終期は「次のいずれかの早い日」までです。
①話し合いによって養育費の取り決めをした日
②養育費の審判が確定(※)した日
③子どもが成年(満18歳)に達した日
※審判とは、話し合いで決着が着かないときに、裁判所が養育費の金額等を決める手続きのことです。審判の内容を知った日から不服申立て期間(14日)を経過した日が確定日となります。
法定養育費制度は、あくまで養育費について取り決めができていない場合の応急の措置ですから、養育費について取り決めができた場合はこの制度を使うことができなくなります(①、②)。また、一般的に、子どもが成年に達した場合は、子どもの世話も必要なくなると考えられるため、子どもが成年に達した日を制度の終期とされているのです。
なお、始期や終期が月の途中の場合、養育費は日割りで計算されます。
請求日
法定養育費の請求日は毎月末日とされています。
したがって、たとえば、2026年6月15日に離婚し、法定養育費が子ども一人2万円となった場合、その月の子ども一人の法定養育費は1万円(2万円×15/30)となり、6月30日以降に相手に1万円を請求できるということになります。
法定養育費の支払い拒絶、免除・猶予されることも
法定養育費の金額は相手の資力や収入を考慮されておらず、相手の資力や収入によっては支払いが困難なケースも出てくることが考えられます。
そこで、法定養育費を請求できる場合であっても、相手が支払能力を欠くためにその支払をすることができないことまたはその支払をすることによって生活が著しく窮迫することを相手が証明したときは、相手は法定養育費の全部または一部の支払いを拒むことができます。
また、離婚調停、養育費の変更調停などで、裁判所が養育費について取り決めをした場合にも、裁判所が法定養育費の支払いの全部または一部の免除または猶予等をできるとされています。
おわりに
法定養育費はあくまで、話し合いなどで養育費の取り決めをするまでの暫定的な制度です。また、金額は個別の事情を考慮して決められているわけではなく、決して高いとはいえません。そのため、取り決めをしないまま放置していると大きく損をしてしまう可能性もあります。離婚のときに養育費の取り決めをしなかったことはやむを得ないにしても、離婚した後は早急に養育費の取り決めに向けて動き出す必要があるといえます。