不倫慰謝料は損害賠償請求権という権利の一種です。そのため、時効が完成すると権利行使できなくなる、すなわち、不倫慰謝料を請求できなくなるおそれがあります。

ところが、不倫されたことを知って直ちに慰謝料請求できる人は少ないでしょう。不倫から数か月、場合によっては数年以上経って慰謝料請求せざるをえない方もおられると思います。その際に注意しなければいけないことが時効です。

この記事では時効の意味や時効期間、時効期間の起算点のほか、時効期間を延長、リセットする方法を解説していきます。今後、不倫慰謝料を請求しようかご検討中の方は参考にしていただければと思います。

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小吹 淳:R7司法書士試験合格者・行政書士
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目次

不倫慰謝料の時効とは? 

まず、時効について簡単に確認しましょう。時効(消滅時効)とは、ある時点(起算点)から一定期間を経過したときに、相手に対する権利を消滅させてしまう制度です。

先ほども述べましたように、不倫の慰謝料は損害賠償請求権という権利の一種です。そして、この損害賠償請求権には時効期間という期間が設けられていて、その期間が過ぎると損害賠償請求権は消滅してしまいます。損害賠償請求権が消滅すると、もはや不倫慰謝料を請求することはできません。

不倫慰謝料の時効期間と起算点

では、不倫慰謝料(損害賠償請求権)の時効期間は何年かというと、それはあなたが不倫の事実と不倫相手の名前や住所を知った日から「3年」、あるいは、最後の不倫の事実から「20年」です。

前者の場合は不倫慰謝料を請求する人が「知って」から3年の時効期間が進行するのに対して、後者の場合は知ったかどうかにかかわらず、20年の時効期間が進行するという違いがあります。

たとえば、6年前の不倫を最近知ったという場合、20年の時効期間が経過しておらず、不倫慰謝料の時効は完成していません。一方、25年前の不倫を最近知ったという場合、20年の時効期間が経過しており、不倫慰謝料の時効は完成しているということになります。

離婚慰謝料の時効期間と起算点

不倫慰謝料に似た慰謝料として離婚慰謝料があります。離婚慰謝料とは離婚のときに請求する慰謝料です。

離婚慰謝料の時効期間も3年ですが、時効の起算点は離婚時です。つまり、離婚から3年が経過すると時効が完成し、基本的には離婚慰謝料を請求できなくなります。また、原則として、離婚慰謝料は不倫相手に請求することができません。一方、不倫慰謝料は配偶者にも不倫相手にも請求できますが、離婚しない場合は不倫相手に対してのみ請求することが多いです。

時効期間を延長する「時効の完成猶予」の方法

時効完成が間近に迫ったときの対処法として、時効期間を延長する方法が「時効の完成猶予」、リセットする方法が「時効の更新」です。ここでは時効期間を延長する方法について解説します。

催告

催告とは裁判手続きによらないで不倫慰謝料を請求することです。具体的には不倫相手(または離婚後の元配偶者)に対し、配達証明付きの内容証明郵便を使って不倫慰謝料の請求書面を送ります。

内容証明郵便を使うと請求書面は直接相手に手渡されます。相手が請求書面を受け取った日から6カ月間は時効が完成しません。催告は1回限りの効力しかありません。一度催告して6カ月以内に再度催告を繰り返しても、1回限りの効力しかないということです。

協議を行う旨の合意

配偶者(または離婚後の元配偶者)、不倫相手との間で、慰謝料について協議する旨の合意を書面または電磁的記録に残した場合は、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は時効は完成しません。

・合意があった時から1年を経過したとき 
・合意において当事者が協議を行う期間を定めたときは、その期間を経過したとき
・当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でなされたときは、その通知の時から6か月を経過したとき

調停の申立て

配偶者に対する調停は、離婚前は「夫婦関係調整調停(離婚)」を、離婚後の慰謝料請求の調停は「慰謝料請求調停」を家庭裁判所に申立てます。一方、不倫相手に対する調停(民事調停)は簡易裁判所に申し立てます。

調停を申し立てた後、調停が成立するまでは時効は完成しません。また、調停不成立、調停取り下げなどによって調停が終了した場合でも、その日から6カ月間は時効は完成しません。一方、調停が成立した場合は、あとで解説する時効の更新となり、時効期間の進行がリセットされます。

裁判の提起

裁判を提起することでも時効の完成が猶予されます。裁判を提起した場合、裁判が終わるまでは時効が完成しません。また、訴えを取り下げた場合や裁判所により訴えが却下された場合でも、その時点から6カ月間は時効は完成が猶予されます。一方、裁判による和解、判決の効力が確定した場合は、あとで解説する時効の更新となり、時効期間の進行がリセットされます。

なお、配偶者に対する離婚前の裁判については、原則として、調停を経てからでなければ提起することができません(調停前置主義)。

時効の進行をリセットする「時効の更新」の方法

時効の完成猶予に対して、時効期間をリセットして振り出しに戻すことを「時効の更新」といいます。以下では、主な時効の更新方法について解説します。

債務の承認

手軽に実践できる時効の更新方法は、配偶者(または元配偶者)や不倫相手に債務を承認させることです。債務の承認とは、配偶者や不倫相手が不倫を認め(①)、慰謝料の支払い義務があることを認める(②)意思表示のことです。

口頭(口約束)でも債務を承認させることができますが、そのままだと後で言った・言わないのトラブルに発展しかねません。上の①と②を誓約書や示談書にきちんと残しておくことが大切です。

調停の申立て、裁判の提起

難易度の高い方法となりますが、調停や裁判を起こし、かつ、調停では調停を成立させ、裁判では和解・判決を確定させることによって時効を更新することができます。なお、調停、裁判を起こした場合、あるいは調停不成立、訴え取り下げ、却下等で裁判を終えた場合でも時効の完成猶予の効果が生じることはすでに述べたとおりです。

時効に関するよくあるQ&A

最後に、不倫慰謝料と時効に関して、よくある疑問についてお答えしていきます。

2年前から浮気されていますが、慰謝料請求できますか?

配偶者(または元配偶者)、不倫相手いずれにも請求できます。配偶者に対する不倫慰謝料の時効は離婚するまで完成しませんし、離婚してからも最低でも6か月の猶予期間があります。また、あなたが2年前から不倫相手のことを知っていたとしても、時効完成まで残り1年はあります。

時効期間が経過した後に慰謝料請求することは可能ですか?

可能です。時効期間が経過して時効が完成した後も、配偶者や不倫相手が慰謝料の支払義務を免れるには「時効の援用」という手続きを取る必要があります。時効の援用とは、配偶者や不倫相手が、あなたに対し、時効の完成によって慰謝料の支払義務を免れる意思表示をすることです。この時効の援用がとられていない限りは慰謝料を請求することができます。なお、あなたが不倫慰謝料を請求した後に、配偶者や不倫相手が「払います。」という意思表示(債務の承認)をした場合は、配偶者や不倫相手は時効の援用をして慰謝料の支払義務を免れることができなくなります。

先日、時効だからと夫から10年前の浮気を告白されました。慰謝料請求できますか?

婚姻期間中、配偶者に対する不倫慰謝料請求権は時効完成による消滅しません。不倫相手に対しては時効が完成している可能性がありますが、不倫相手が時効を援用しない限り、請求は可能です。もっとも、不倫から長期間を経過していることから、不貞等を証明する証拠が残っているのか、そもそも慰謝料が発生するのかといった問題をクリアしなければならないでしょう。